語学力以上に大切! 海外でキャリアップするための心得10
2018/04/16(月)
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二児の母でもある平栁敦子監督は、現在サンフランシスコ在住。Photo: Yoko Yamashita

SPECIAL INTERVIEW

平栁監督の長編第一作『オー・ルーシー!』が私たちの胸にささる理由

――ヒロインの節子は監督自身を投影したキャラクターですか。
 
英語ができなくて、自分の本当に言いたいことが伝えられない時期があったので、節子には私自身のそういうフラストレーション、もどかしさなどを反映しています。寺島さんとは事前の打ち合わせもほとんどせず、リハーサルすらやりませんでした。もちろん、ちょっとした質問などはありましたが、節子はまさに現場で、本番で生まれたものを大事にしてできあがったキャラクターだと思います。
 

――寺島さんは女優として、国内はもちろん、海外でも評価が高いですが、一緒に仕事をしてみて感じた彼女の魅力について教えてください。
 
寺島さんのように恐れず、果敢に演技をする方って、世界を見渡してみても、とても稀有な存在だと思います。美しさにとらわれず、醜い面も気にせず、さらけ出す。女優さんの場合、どちらかというと、きれいに見せたがる傾向があります。あの『ワンダーウーマン』ですら、強さばかりでなく、完璧に美しい容姿を前面にうち出していますよね。寺島さんの場合は人間の弱さや醜さをまるで隠そうとしない。見て、感じられるものだから、言葉や文化的なものを超えて、伝わる。だからこそ、世界中の観客が魅了される。ティーチインを行うと、「すごい女優さんですね。演技が素晴らしい」ってどの国でも絶賛されます。本物は誰が見てもわかる。その一言に尽きると思います。
 
 

今年のインディペンデント・スピリット・アワードにて、主演の寺島しのぶさんと平栁さん。

――寺島さんをはじめ、南果歩さんや役所広司さん、名だたる面々がキャスティングされています。
 
皆さん、脚本を気に入って下さったそうで、本来なら無名な私ではとても声をかけられないような方が集まってくださいました。

ここ数年、ハリウッド映画から遠ざかっていたジョシュ・ハートネットが、脚本に感銘を受けて出演を快諾。

――スタッフの方々は日米どちらが多いんですか。
 
日本の撮影は日本人スタッフで、アメリカではアメリカのスタッフで撮影しました。唯一、カメラだけは全編、Paula Huidobroが担当しています。戸惑うこともありましたが、お互い理解し合おうとコミュニケ―ションをとり合うようにしました。特に私は、言葉だけでなく、両方の事情もわかるので、話し合いで解決できるよう、気を配りました。もしかしたらご迷惑をかけていたのかもしれませんが、今回はそういう撮影だということをわかって参加してくだっているスタッフばかりだったので、割とスムーズにいったと思います。

――時間優先のアメリカと、ねばって撮影する日本の撮影の仕方の違いをよく聞きますが、現場で戸惑うようなことはありませんでしたか。
 
大きな違いと言えば、助監督の役割が日本とアメリカでは全く別です。アメリカで助監督はタイムオーバーしないためにいかに撮影をうまく回すかといったスケジューリングの役目が強い。だから、「どっちの撮影を優先しますか。こっちを撮ると、もう一つは無理ですよ」といった提案をしたりします。日本の助監督は監督の撮りたいものを撮らせたいというポリシー。いいのか悪いのかわかりませんが、アメリカと違って組合がないので、時間がおしても、別料金が発生しないからでしょう。演出している際は時間を忘れてしまうのですが、日本には刻んでくれる人がいません。日本側としては焦らせず、じっくり撮ってということなのでしょうが、最初は慣れませんでした。そのうち、日本の撮影中は自分で時間を意識するようになりました。それ以外は日本の助監督は至れり尽くせり。アメリカでも一人、欲しかったくらいです(笑)。システムの違いで、やり方も違いますが、皆さん、最終的には「いい映画を作りたい」という気持ちで一つになっていた。だから、やり遂げられたのだと思います。

 

Photo: Yoko Yamashita(Portrait),l © Oh Lucy,LLC Text: Aki Takayama

  • PROFILE
    平栁敦子/長野県生まれ、千葉県育ち。高校2年生の時に渡米し、ロサンゼルスの高校を卒業後、サンフランシスコ州立大学にて演劇の学位を取得。2009年、シンガポールのキャセイ財団の奨学金を受け、ニューヨーク大学大学院映画学科(NYU Tisch School of the Arts,Asia)に入学。13年、映画制作の修士号を習得。同大学院2年目に制作した短編映画「もう一回」(12)がショート・ショート・フィルム・フェスティバル&ASIA 2012グランプリ、ジャパン部門優秀賞、ジャパン部門オーディエンスアワード受賞をはじめ高く評価されたのに続き、桃井かおりを主演に迎えた修了作品の短編「Oh Lucy!」(14)もカンヌ国際映画祭シネフォンダシオン(学生映画部門)第2位、トロント国際映画祭などをはじめ各国で35を超える賞を受賞。「Oh Lucy!」の長編バージョンである本作『オー・ルーシー!』は16年、脚本の段階でサンダンス・インスティテュート/NHK賞を受賞、同賞のサポートを受けて制作された。プライベートでは2児の母で極真空手黒帯初段の保持者。

  • 『オー・ルーシー!』

    大学院生の修了作品として手掛けた短編『オー・ルーシー!』がカンヌをはじめとした映画祭で、35以上もの賞に輝いた平栁敦子監督がその世界観をさらに掘り下げ、長編監督デビュー。脚本にほれ込み、新人監督としては異例の豪華キャスティングが実現した。43歳、独身の節子は会社では空気のような存在で、一人暮らしの部屋は物だらけ、無気力な毎日を送っていた。ある日、姪に頼まれ、出かけた英会話教室で教師のジョンと出会った節子は、ルーシーと言う名前とかつらを与えられる。ジョンから、アメリカ人のようにハグされ、すっかり彼に魅了されるも彼は帰国。節子は一念発起して、彼の後を追う。言いたいことも言えず、やりたいこともなく、誰ともかかわらず暮らしてきた節子のちょっとした冒険に思わずエールを送りたくなる。世界中で評価されている寺島しのぶのルーシーが実にはまり役。

    2018年4月28日公開 
    http://oh-lucy.com/
     

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