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(C) 2013 NHK

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「もはやこれは、あまファシズムだ!」

芥川賞作家・松浦寿輝&松浦泉夫妻のとりとめのない対話

※寿=松浦寿輝、泉=松浦泉
 
寿──いやあ、終わっちゃったね。
 
泉──意外にあっさり終わりましたねえ。
 
寿──まあ最後の一週間は、毎日が最終回みたいだったから。
 
泉──最終話は、北鉄のホームやお座敷列車の外にいる久慈市の普通の人たちをちゃんと映していたよね。でも、鈴鹿ひろ美や春子や忠兵衛さんはもういなくなってる。みんながそれぞれの持場に戻って、また北三陸の日常が始まるわけね。
 
寿──ユイちゃんは、最後は東京に向かうのかと思ってたんだけど。
 
泉──彼女がこのあと東京でアイドルになるのか、地元で地道に生きていくのかは誰にもわからない。“この線路はいつか東京につながる”という余韻をもたせてジ・エンド。
 
寿──それにしても、俳優がみんな輝いていた、というか得をしたドラマだった。特に宮本信子。伊丹十三の映画に主演していた頃は、スクリーンで主役を張るのは辛そうだなあと同情しつつ、少々うら哀しい気持ちで見てたんだけど、その経験の蓄積が生かされて今回は貫禄の演技だった。中年になって難しい感じだった薬師丸ひろ子も、最高の舞台を提供してもらったのでは。
 
泉──天野春子からミズタクまで、ほとんどの役がそれを演じる俳優の実像と何らかの形でダブっていて、当て書きとしか思えないんだけど、だとしたら脚本を書き始めた時点で、この超豪華キャストのスケジュールを押さえられるとわかっていたわけで、そこも含めてクドカンとNHK恐るべし。
 
寿──考えぬかれた構造をもつ脚本なのは確かだね。社会学者の大澤真幸さんは、戦後から1970年までを“理想の時代”、1970年から1995年までを“虚構の時代”、それ以降を“不可能性の時代”と区分している。それで言えば、「あまちゃん」の夏ばっぱ、春子、アキの母・娘・孫はこの3つの時代区分に見事に対応してる。夏ばっぱが愛唱する「いつでも夢を」は“理想の時代”を代表する極めつきの歌謡曲だし、春子が憧れたアイドルという存在はそもそも“虚構の時代”の産物でしょう。そして全国区のアイドルになる道を選ばずに終わったアキとユイは“不可能性の時代”を生きている、と。
 
泉──おお、「コメント」っぽい発言が出たわね!
  
寿──“虚構の時代”を飛び越して(「来てよ その火を飛び越えて」)、一挙に“理想の時代”まで遡行し、その「夢」を呼び出して日本人のノスタルジーを刺激してみせるという宮藤氏の着想というか、時代の空気の「読み」の戦略的な鋭さには、敬意を表するほかはありません。
  
泉──すべての世代を巻き込んで当事者にしてしまう盤石のシステムを構築したわけだよね。だから80年代ネタやサブカルの小ネタがわからなくても、全然オッケー。
  
寿──しかし、“虚構”の80年代に『リュミエール』で映画批評を書いていた僕としては、“朝の連続テレビ小説”が知識人を巻き込んで国民規模で支持されるという頽落的な事態はまったく予想してなかったし、全面的には受け入れがたいものがあるよねえ。こうなるともはや“あまファシズム”でしょ。
  
泉──そう言いながらも、何度も号泣する姿を目撃したような気がするんですけど……。
  
寿──う~ん、橋幸夫がいきなり登場して夏ばっぱに「なっちゃんだよね? 体育館で一緒に歌った?」と話しかける場面とか、鈴鹿ひろ美がついに自分の声で「潮騒のメモリー」を歌うリサイタルには、ついつい涙腺を刺激されてしまったのは認めるよ……。
  
泉──「あまちゃん」は徹頭徹尾テレビドラマ。劇場の暗闇で孤独に見つめる映画と違って、テレビの画面をはみ出してSNSその他で共有されていくコンテンツなのよね。スカと盆踊りを融合させた大友良英のテーマ曲や劇伴の音楽をはじめ、すべてがものすごく手間ひまかけて贅沢に作られていたし、私は「あまちゃん」一色になるはずの紅白歌合戦を素直に楽しみにしてますよ。
  
寿──僕も、紅白で小泉今日子と薬師丸ひろ子がデュエットしたら、また号泣しちゃうかもしれない……。
  

  • 松浦寿輝/作家・詩人。1954年東京生れ。『花腐し』で第123回芥川龍之介賞受賞。『折口信夫論』で第9回三島由紀夫賞受賞。短篇小説集『もののたはむれ』『幽』『あやめ 鰈 ひかがみ』、長篇小説に『巴』『半島』、評論に『エッフェル塔試論』(第5回吉田秀和賞受賞)、詩集に『冬の本 松浦寿輝詩集』(第18回高見順賞受賞)など。

  • 松浦泉/編集者、ライター。ブログ「川の光日記」では吉祥寺と軽井沢を往復しながら、夫と犬と猫の観察日記を更新中。

  • (C)2013 NHK

    『あまちゃん 完全版 DVD-BOX1』
    人気脚本家・宮藤官九郎が、能年玲奈主演で描くNHK朝の「連続テレビ小説」シリーズのBOX第1巻。東北・北三陸の小さな田舎町を舞台に、海女さんを目指すヒロインが奮闘する姿を綴った人情喜劇。第1週「おら、この海が好きだ!」から第8週を収録。

    ¥15,960/東映ビデオ 10月14日発売

    ※BOX2は11月8日、BOX3は2014年1月10日に発売予定

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