こだわりと技がぎゅっと詰め込まれた華やかな一皿
ロッシ/Rossi
“あの岡谷シェフが動き出した”――表参道の一軒家リストランテ「フェリチタ」で、12年間総料理長として腕を奮ってきた岡谷文雄シェフが2011年9月20日にオープンした「ロッシ」。イタリアンの枠にとらわれず、イタリアの伝統的な調理法から和の素材や技法までをも駆使したオリジナリティのある料理で多くのファンを惹きつけてきた岡谷シェフ。「年をとってもここで料理を作っていたい。自分の最後の店にしようと思っています」と、半年の準備期間を経てオーナーシェフとして独立を果たした。
さて、2011年オープンのはずの「ロッシ」、ショップカードを見ると「1993」と書かれている。実はこちら、「フェリチタ」の前に岡谷シェフがオーナーシェフを務めていたレストランの開業した年。かつて六本木で、他で食べられないイタリア北部の料理や当時まだ馴染みの薄かった自然派ワインが楽しめる店として伝説的な人気を誇った同名のレストランを、12年の時を経て料理人人生最後のステージとして復活させたのである。
日テレ通りを1本入った、飲食店が多く入ったビルの地下。階段を降りると、70~80年以上前のものというアンティークのコルクを刺す器具とともに、自然派ワインのファンが見れば涙を流しそうな希少なキュヴェやバックヴィンテージのボトルがずらっと揃ったセラーが覗く。喫茶店を改装した店内はカウンター8席を含む全22席。カウンターとキッチンはほぼ同じ高さ、座れば岡谷シェフを始め3人の料理人の仕事をまさに目前で感じることができる。「カウンターならではの緊張感を大切にしたくて。体力のあるうちに、できるだけのことをここでしたい」というシェフのこだわりが詰まった特等席だ。
食事が26時、ドリンクが27時までオーダー可能というのもうれしい。自他共に認めるワイン好き、酒場好きなシェフだけあって「1人でも、ワイン1杯だけでも大歓迎」。仕事を終えた同業のシェフたちが訪れることも多いとか。随時新しいボトルが空き、好みや料理に合わせて様々なワインをグラスでオーダーすることができる。特別な日には、ソムリエに相談して自慢のセラーからとっておきの1本を出してもらうのもおすすめ。また、サーバーで提供している店は都内でも数軒という静岡の地ビール「スルガベイ」にもぜひトライを。ふくよかで個性的な香りと味わいに、ワイン党も大満足間違いなしの逸品だ。
おまかせコースのスタートを飾るのが、目にも華やかな前菜の盛り合わせ。日によって12~13種類の料理が並ぶこの一皿には、10年越しのファンも多いという岡谷シェフの料理の魅力が詰まっている。
例えば、バゲットが添えられたパテ。出生率が極めて少ない北海道産のサフォーク羊のレバーを使用したもので、幻と呼ばれるこの食材を仕入れることができるのも、シェフが長年培ってきた生産者との信頼関係によるもの。そのほか、ブランデーではなくグラッパで仕込んだ豚肉のパテ、ラードでコクを出したトリッパとセンマイのバジルペースト、葉を食べる大根・もみ菜のバーニャカウダソースにかぼすを効かせたハタのカルパッチョと、食材といい調理法といい、和洋を自由に横断したここでしか出合えない料理ばかり。
プレート左上のプロシュート・コットをはじめ、“自家製”もキーワード。現在仕込み中の天然酵母を使った自家製パンも近々お目見え予定だ。この前菜はアラカルトでのオーダーも可能。一皿でもワインがどんどん進んでしまいそう!?
「トリュフなど強い味わいの食材や肉を使った料理が多いので、それに負けない存在感とボリュームのあるワインがおすすめ」とシェフが提案してくれたのは、トスカーナを代表する自然派のワイナリー「マッサ・ヴェッキア」の白ワイン。琥珀がかった黄金色と、シェリーやアプリコットのコンポートなど複雑性のある豊かな香りをもつワインは、10数種各々の料理と合わせるごとに異なる顔を見せてくれる。家族経営による生産本数の少なさと人気が相まって、なかなかグラスで開くことのないワインがここでしか味わうことのできない料理と楽しめるのも「ロッシ」ならでは。
ワインイベント等も今後開催したいという岡谷シェフ。12年の時を経て辿りついたステージで、これから繰り広げられていくであろう極上のライブに期待したい。
SHOP INFORMATION
(火~木)12:00~13:30 L.O.
(月~金)18:30~0:00
(土)18:30~23:00 L.O.
日曜・祝日
photo: Miki Takahira, text: Naoko Monzen