「キロメートル」が目指すプロジェクトの行く先
パキスタンでプロジェクトの着想を得た後、実際に「キロメートル」が始動したのは2年前のメキシコ訪問だったそう。
「とある工房で素晴らしい刺しゅうの技術を見たとき、伝統的な鳥や花といったものだけだったモチーフに、バリエーションを広げてみたいと思ったの。直接、現地に行って刺しゅうにしてほしい土地の写真を見せてアイデアをふくらませていくことはとても楽しいのよ。コラボレーションね! GPSの存在も知らないような彼らによる手仕事と、現代的なモチーフを組み合わせるということが、ブランドのアイデンティティとしてすごく大事なの」
インドとメキシコの職人に依頼しているという刺しゅうは、すべて手縫いによるもの。一枚の作品を仕上げるために6週間を要するため、一着20万円以上になるものも。
「ブランドを始めるまでは1枚のシャツに対する手刺しゅうに350ユーロを払っても、職人の手元には60ユーロしか入らないという現実があったの。でもそれはやっぱりおかしいと思って、もっとダイレクトに仕事ができる人たちを捜したのよ。今も彼らは屋根もないアトリエで仕事をしているから、ブランドを起動に乗せて、整った環境をプレゼントしたいの」
パリ在住のイラストレーターがスケッチを起こし、メキシコやインドのアトリエへ刺しゅうをオーダー。ヴィンテージ以外のシャツは、日本のパタンナーが手掛けているという「キロメートル」。
「世界の各地で遠隔操作をしてるのも現代的でしょ? 今夏は私的なプロジェクトの一環として、フランスの学生二人短期の留学をサポートしているの。一人はモードで使えるグラフィックデザインを学びに日本へ。もう一人は織物を学びにチリへ。旅行は人生を変えるきっかけになるから、それを若いうちに体験してほしくて。たとえ外国でなくても隣の街でも、可能性がある人たちにそういう場を提供したいと思っているの」
旅がコンセプトの「キロメートル」という新しい場で、多角的なプロジェクトを展開しているアレクサンドラ。ヴィンテージシャツと刺しゅうからスタートしたブランドの“旅”がどこへ向かうのか、要注目!
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PROFILE: ALEXANDRA SENES/アレクサンドラ・セネス
アフリカ・セネガル生まれ、NY育ち。パリでキャリアをスタートし、『エル』をはじめ、数々の雑誌でエディターとして活躍。2006年にモード誌『ジャルーズ』の編集長に就任。幼少時代から異国文化に触れて育ち、仕事やプライベートで数えきれないほど旅をしてきた経歴から、「旅」を通じて各国のサヴォアフェール(職人技術のノウハウ)を現代的な解釈で伝える、シャツとワンピースのブランド「キロメートル」を2016年スタート。
photo: YUSUKE KINAKA coordinate: HIROKO SUZUKI
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「キロメートル」公式サイト(英語)
https://kilometre.paris/