生きづらさと恐れを感じて:蒼井優インタビュー
常に心に闇をもち続け自死した作家、佐藤泰志の5度目にして最後の芥川賞候補作「オーバー・フェンス」が山下敦弘監督によりついに映画化。社会の底辺でのたうちまわる人々が描かれるこの作品で、心を病む女性を演じた蒼井優がエル・オンラインに語った、自身の生きづらさと共演者オダギリジョーの“怖さ”とは?
「オダギリさんの目に恐怖」
―――観ていて、蒼井さんと恋におちるオダギリジョーさんがすごく怖かったです。
同じくです。
―――普通の人生を送ってきた人が、生きづらさを感じている人に向ける視線の無意識の怖さというか……。オダギリさん演じる白岩という男性を、蒼井さんはどう感じられましたか?
現場でも怖かったんです。すごく、いろいろな条件が重なって「そんな目で私を観ないで」っていう台詞と同じように、(オダギリさんの)目の恐怖をとても感じました。
私の年代の俳優たちが思っていることだと思うのですが、オダギリさんは一種、金字塔を立てられた方という印象があります。浅野忠信さんや、永瀬正敏さんもそうですが、ひとつ何か空間を作った方たちのなかで、いちばん近い年齢の方がオダギリさん。私と同世代の男優さんたちは、皆そのバトンを受け取りたいと思っている。どこか憧れというか畏敬の念を持っているような気がします。私が受け取れるとも思っていないし、受け取りたいとも思いませんが、10年ぶりに共演させていただいて、オダギリさんが演じる白岩の目線の奥にいろいろ感じてしまいました。
オダギリさんは現場では、作品について語らないんです。自分自身についても。だから、腹の裡がまったく読めない。この作品がいい方向に向かっているかどうかもわからない。私が見てきた主演をしている先輩たちは、必ず真ん中にいるんです。監督がいて、主演がいて、すぐ隣にカメラマンがいて、っていう感じ。そこを中心に輪ができる。なのにオダギリさんは輪の外にいて、全体を観ている。こんな主演のあり方が居かたがあるんだと。10年前には気づかなかった。
――そんなオダギリさんと白岩がかぶることはありましたか?
すごくありました。白岩が無意識に向けている、距離感のある視線が、オダギリさんがナチュラルに実際の私に向けているのではないかと思うくらい、リアルで(笑)。オダギリさんはそうじゃないとおっしゃっていましたが。今でもゾクッと感じるくらい。
――相手役として不安になりませんでしたか?
すごく。監督に「(オダギリさんとの)このシーン、どうしたらいいんですかね?」と訊いたら、「俺もわかんない」とかおっしゃるんですよ(笑)。だから「そんなの自分で考えろ」ってことなのかな、とか深読みし過ぎてしまって、後から訊いたら「本当にわかんなかっただけ」って。
Photo : Katsuhiko Kimura(D-code) Styling : SETSUKO MORIGAMI(shirayama office) Hair&Make : Eri Akamatsu(esper.)
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『オーバー・フェンス』
白岩義男(オダギリジョー)はある事件が原因で妻子と別れ、勤めていた建設会社を辞め、故郷の函館に戻る。実家には帰らず職業訓練校に通い、わずかな失業手当で暮らしていたある日、鳥の物まねをするホステス、聡(蒼井優)と出会い急速に距離を縮める。そんなある日、学校で事件が起きて……。2010年『海炭市叙景』(熊切和嘉監督)、2014年『そこのみにて光輝く』(呉美保監督)に続き、近年再評価が高まる非業の作家、佐藤泰志の“映画化三部作”の最終作。
監督:山下敦弘
脚本:高田 亮
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介、松澤 匠、鈴木常吉、優香
全国公開中
http://overfence-movie.jp/
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