名匠たちに愛されたドラマが似合う女
ドミニク・サンダ
五月革命の余韻を残した'70年代は、やはり'60年代の祝祭の後にくる必然というか、どこかにデカダンな陰りを見せ始める。 『ベニスに死す』 ('71年) 、 『ラストタンゴ・イン・パリ』('72年) 、 『愛の嵐』 ('74年)がその時代的傾向を顕著に表している。女優のファッションも'60年代のミニや奇抜なファッションから一転して、ロング丈のスカートやヒッピーが生まれてくる。 『ラストタンゴ・イン・パリ』で中年男マーロン・ブランドを翻弄するマリア・シュナイダーは、19歳にしては大人びた襟もとが白いファーのロングコートを着て、花飾りの帽子を被り、ヒッピー的なエレガンスだった。この時代は、ファッションにもドラマ性が求められ、繊細でフェミニンな着こなしをするジャクリーン・ビセットやロミー・シュナイダーのブルジョア風の着こなしが注目されていたし、彼女たちだけでなく、当時は個性的なヘアスタイルのボブで通していたミレーユ・ダルクも、おしゃれな女優だった。歌手として国際的舞台で今なお活躍しているパリの伝説的ミューズ、ジェーン・バーキンも、その息の長さに驚かされる。どんなに時を重ねても、まったく色あせないそうした女優たちを見ていると、'70年代がいかに豊潤な時代だったかがわかるようだ。
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『暗殺の森』('70)
少年時代に襲ってきた男色の男を殺したという罪に苦しむ哲学講師は、パリに亡命中の恩師の殺害命令を受けるが恩師の夫人に激しい恋心を抱いた。
文・選: 村上香住子(エッセイスト)
Photo: AFLO、GETTY IMAGES
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村上香住子
'85年から20年間、日本の出版社のパリ支局長として取材活動。パリの映画やファッション関係者と親しい。帰国後、エッセイ集出版。2011年から東日本復興支援アマ・プロジェクト設立。ジェーン・バーキンも支援。近著は『パリ・スタイル 大人のパリガイド』。 -
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