マックイーンを射止めた'70年代のモテ女王
アリ・マッグロー
公民権運動やベトナム反戦運動を背景に'60年代末に誕生したアメリカン・ニューシネマは、隠蔽されていた社会の絶望や混沌を暴き出し、アメリカ映画にそれまで登場していた快活な男たちを一転、悩める存在へと変貌させた。そんな彼らにはもはやハリウッド的なスウィートなヒロインを包み込む余裕も度量も残っていなかった。それに呼応して女性キャラも変貌を遂げつつあったが、向かっていたのは男とは正反対のアクティブな方向だった。この時代のハリウッド映画を代表する女性キャラといえる『追憶』 ('73年)のバーブラ・ストライサンドも『アニー・ホール』 ('77年)のダイアン・キートンもそれまでのヒロインとはまったく異なっている。というのも、ふたりとも愛する男がいながら家庭の主婦の座には収まらないからだ。彼女たちは自らの仕事と信念を持ち、最終的にはみずから男のもとを去っていくのだ。いずれも従来のスター女優の絶対条件だった、男ウケする美女とは少々異なる個性的なルックスの持ち主であるところにも注目してほしい。ファッションも、グラマラスな'50年代や未来的だった'60年代の反動からか、ベーシックなアイテムの着こなしが同性の人気を集めた。スター女優が憧れの対象からまねしたいお手本へと変わった時代、それが'70年代なのかもしれない。
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『ある愛の詩』('70)
富豪の息子と白血病に侵された妻との恋愛を描いた難病モノの先駆け作。セー
ターやタータンチェックのスカートなど、マッグローのプレッピーファッショ
ンが最高。
文・選 :長谷川町蔵(文筆家)
Photo: AFLO、GETTY IMAGES
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長谷川町蔵
文筆家。'90年代末からライターとして活動。映画、音楽、文学などに関して幅広く執筆し、特にアメリカのポップカルチャーを得意分野とする。著書は、『21世紀アメリカの喜劇 人』『ヤング・アダルトU.S.A.』など。最新作は小説『あたしたちの未来はきっと』。 -
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