特集 2017/8/22(火)
女性たちが支えたアメリカン・アートの歴史

女性たちが創ったMoMA vs. 男たちのMET

モダン~コンテンポラリーアートの流れにおいて、重要な様式や潮流を発信してきたアメリカン・アート。そこにはあらゆる方面で深く関わり、アートを育てた女性たちがいた。今も変わらない男性優位の体制の中、アートシーンを力強く開拓していった女性たちに、エル・オンラインでおなじみ、フォトリサーチャーでもある在米ライター、オー・玲子さんがフォーカスを当てる。

ガートルード・ヴァンダービルト・ホイットニー本人のポートレート。1942年撮影。

Photo: Getty Images

METに断られた女性芸術家が立ち上げたホイットニー美術館  
 
もうひとり、コーネリアス・ヴァンダービルト2世を父に持ち、フィフス・アベニューの邸宅で生まれ育ったガートルード・ヴァンダービルト・ホイットニーもまた、1900年代初期のモンマルトルやモンパルナスの文化に触れたひとりだった。彫刻家を志した彼女はまだ数少ない女性彫刻家たちとともにニューヨークで学び、独立したアーティストとして活動しようとした。だがすぐに誰も自分の創作活動をまともに評価してくれないことに気が付いた。自身の家名のためにソーシャライトの活動としてしか評価されないばかりか、家族の誰も彼女の真剣な願いをまともに受け止めてはくれなかった。男性でありさえすればアーティストとしてもっと真剣に受け止めてもらえるばかりか、コミッションワーク(土地・建物の所有者から依頼された美術制作)も受けられる可能性もあったが、女性がゆえ「ありあまる財力を女が趣味のために使っているだけだ」と、批判的にとらえられてしまうことに悩んでいた。彫刻家として活動を続けると同時に、財産を元手に精力的にコレクションを始め、アートシーンにおけるパトロネーゼとして活躍しはじめた。そうして自身のスタジオにギャラリーを開設すると、1929年、25年間以上にわたるコレクション活動で得た700点にも及ぶ作品群をメトロポリタン美術館(MET)に寄贈しようとした。が、なんとその申し出をMETが拒否。そこで、同じころに開設されたMoMAに大いに影響を受け、かわりにアメリカのアートを中心とした自身の美術館を設立した。それがあのホイットニー美術館だ。

ペギー・グッゲンハイムとその姉妹ベニータ。1919年撮影。

Photo: Getty Images

富裕層の女性たちが礎を築いたアメリカンアート  
 
アート作品を、「階級という階段を斜めにかけ上がる手段」としてアメリカの振興実業家が用いたのは事実だが、アメリカの文化を世界水準に上げよう、市民や後にアーティストとなる人々へのアウトリーチに努めようとする気風があったこともたしか。そして、とくに富裕層の女性たちがリーダーシップを獲って女性たちのためにも立ち上がり、アメリカという国の文化の「新しさ」と彼女たちを囲む社会の旧態依然の体制とコントラストをなしていることも現代の状況と同じくするものと見て取れる。のちに、相続税などの問題で資本をアートに変換、財団を作り美術館に寄付すること(寄付した資産は非課税の対象となる)も当たり前となる。MoMAなど、アメリカの美術館に運ばれた際には展示室やキャプションカードに掲載されているコレクション名は是非チェックしたい。

 
>>次回は20世紀を駆け抜けた女性写真家たちにフォーカス

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  • オー・玲子(ライター・リサーチャー)/学習院大学哲学科美学美術史専攻卒。写真通信社、海外誌を中心にフォトリサーチャーとして勤務後、現在アメリカにてライターとして活動。

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