『君の名前で僕を呼んで』
1983年、夏の北イタリアが舞台。17歳の少年は、読書をしたりピアノを弾いたりしながら、家族と共に避暑地で暮らしている。大学教授である父親が24歳の大学院生を助手として招き入れ、ひと夏を共に過ごすことになったことから、少年の心の中に微妙な変化が生まれ始める。
本作も『スリー・ビルボード』と同様に、全米では僅か4スクリーンで限定公開されたにもかかわらず、週末の興行成績では14位にランクインする快挙を見せた。アメリカでは大作映画ともなると、4000スクリーン以上で一斉に上映される事もしばしば。つまり14位にランクインしたことが、いかに快挙であったのかは数字が物語っている。ゴールデングローブ賞ではドラマ部門の作品賞・主演男優賞、助演男優賞の計3部門でノミネートされている。
監督は『胸騒ぎのシチリア』(15)のイタリア人監督ルカ・グァダニーノ。英語の台詞が中心で、アメリカ資本が入っているものの、イタリア・フランス・ブラジルとの合作という点で、ハリウッド主導の製作ではない映画が評価されているという点も特徴のひとつ。脚本を『眺めのいい部屋』(86)や『日の名残り』(93)のジェームズ・アイヴォリー監督という巨匠と共作しているのも注目ポイント。
この映画が本格的な初主演となったティモシー・シャラメは、本作の演技で既にNY批評家協会賞やLA批評家協会賞などの主演男優賞を受賞済み。『インターステラー』(14)ではマシュー・マコノヒーの息子役を演じていたが、『君の名前で僕を呼んで』では堪能なフランス語も披露している(父親がフランス人)。大学院生を演じているアーミー・ハマーと共にアカデミー賞での評価が期待できる。
17歳の少年と男子大学院生の恋愛を描いた本作は、昨年のアカデミー作品賞に輝いた『ムーンライト』(16)と同様に、LGBTが題材のひとつになっている。これまでであれば、保守的と言われているアカデミー会員たちから敬遠されるような内容なのだが、社会や時代の変化が本作のような作品に対して正当な評価を与えるようになったことは喜ばしく思える。
【2018年4月予定】
text: Takeo Matsuzaki photo: AFLO, GETTY IMAGES
-
松崎健夫(まつざき・たけお)
映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。