激動のモードを読み解く、5つのキーワード
ランウェイショーで見たアイテムをすぐに買えるといった“SEE NOW, BUY NOW”の潮流や、エイジェンダーやセクシャルフルイディティといった新しい価値観、ビッグメゾンのディレクター交代劇……。今、モード界はかつてないほど混沌とした時代に。だからこそ面白い! と語る「ユナイテッドアローズ」上級顧問で、業界のご意見番、栗野宏文さんが、今後のファッションシーンに欠かせない5つのキーワードをピックアップ。このキーワードをもとに、今のファッションの動向を紐解いてみよう。
Keyword 1
ファッションシステム・キルズ・ファッション
まずは、2016-17秋冬コレクション最大のキーワードでもある“SEE NOW, BUY NOW”について。コレクション発表時期や方法を再考するメゾンが増えるなか、モード界は賛否両論の渦の真っ只中。
「よく海外ジャーナリストに『日本はどうなの?』と聞かれるけど、僕は『もうとっくに日本はそれをやってるよ』と答えています。東京ガールズコレクションって、見たものをその場で買えるっていうコンセプトでしょ。それによって日本のマーケットが変わったかと言われるとそうじゃない。ブランドの嗜好性がそもそも違うからね。でも、モードのメインストリームブランドがそれをやるということは、当然影響力も違ってきます。モノを作るっていう観点でいうと、どう考えても無理。例えば、2016年2月に開催されたプルミエール・ヴィジョン・プリュエルという世界最大の生地見本市に展示されていた生地は、2017春夏コレクション用。そこからオーダーをとって、修正を加え、生地を織ってデザイナーのもとに納品できるのが早くて4~6カ月。そこから縫製するのにまた数カ月、もっと凝った装飾をするとなるとさらに……と考えたら、見てすぐ買えるなんてどう考えても無理なんですよ。オンシーズン型が主流になったら、ものすごく短期でモノを作ったり、素材や縫製も凝ったものが不可能になる。ファッションシステムがクリエイションを殺すことになりかねないですよね」
では、オンシーズン型完全否定派なのかというと、それは違うと栗野さん。「半年待たせることが必ずしもいいとは思わないし、今の時代に合っていないというのも一理ある。例えば、ランウェイで発表する服のうち、半分~3分の1くらい、バッグやシューズを含めて店頭で買えるといういうのはアリかもしれない。要は、クリエイションに時間をかけることができなくなったら、ファッション業界すべてがファストファッション化=自殺行為
ということ。そもそもファッションはカルチャーであって、ただのお金儲けじゃない。ビジネスに走り過ぎた消費先行型だけのファッションに未来はないと思いますね」
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栗野宏文さん
Hirofumi Kurino/「ユナイテッドアローズ」 上級顧問
「ユナイテッドアローズ」にてバイイングやブランドディレクションに携わり研鑚を積み、現在は上級顧問・クリエイティブディレクションを担当。ファッションや文化を読み解くジャーナリストとしての一面もあり数々の媒体で取材・寄稿も行う。日本のファッションカルチャーを担うひとりである。
http://www.united-arrows.co.jp
Photo: Imaxtree, Getty Images