『町でうわさの天狗の子』 岩本ナオ
思いも掛けぬ場面にフードを表出させるまんが家が岩本ナオさんです。片田舎ファンタジーの傑作で、しかも完結しているから最後までストレスフリー。
まず、ヒロインの天狗と人間のハーフ・秋姫はたいへんな大食い設定で、これがのちのち事件の伏線として、たびたび生きてくる展開には恐れ入りました。
また、いろんな食事風景が絡むストーリー展開がみごとです。
例えば秋姫を中心に恋の三角関係である、天狗になりたい幼馴染みの俊ちゃんと、仏師の家系でイケメンのタケルくんの3人がはじめて食卓を囲む初々しい食事シーンや、秋姫の“失恋ドーナツの会”に胸が痛くならない読者はいませんから……というか、参加してドーナツがたべたくなるのこと必至です。
本作で描かれた女子の友情の数々、あるいは恋愛模様……それら名シーンにことごとくフードが絡む展開は真に味わい深いです。
Text : Ricca Fukuda
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福田里香(ふくだ・りか): お菓子研究家。武蔵野美術大学卒。果物専門店として有名な新宿高野に勤務後、独立。主に雑誌や書籍で活躍するいっぽう、漫画への造詣も深く、名作漫画とそれをイメージしたレシピを掲載した著書『まんがキッチン』『まんがキッチンおかわり』も人気。5月11日に待望の新刊『季節の果物でジャムを炊く』(リットーミュージック)が発売される。
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