魅惑の彫刻家を5つのエピソードでひも解く! エル的ジャコメッティ入門ガイド
2017/06/12(月)
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サン=ポール・ド・ヴァンスのマルグリット&エメ・マーグ財団美術館の「ジャコメッティの中庭」で、自らの作品を眺めるジャコメッティ。
マーグ財団美術館の中庭で。 Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France) 

世界が注目する「ジャコメッティ展」の魅力をナビゲート

シンプルでいて、周辺の気配をも芸術に感じさせるほどの表現力をもったブロンズ像。本人の風貌は、もじゃもじゃヘアに彫りの深い顔立ちで、きちんとした上着姿。――20世紀を代表するスイス人彫刻家、アルベルト・ジャコメッティは、一貫したスタイルを貫いた芸術家だった。その彼への再評価が、没後半世紀を経て世界的に盛り上がっている。所縁のあるパリやチューリヒに加え、 中東や中国で企画展が催され、ロンドンのテート・モダンでも回顧展が開催中。 映画界では、演技派俳優ジェフリー・ラッシュがジャコメッティに扮する『Final Portrait(原題) 』の公開が待たれるところ。日本での大規模な回顧展『ジャコメッティ展』は、そんな絶妙なタイミングと重なっているわけだ。
 
「初期から晩年まで、代表作とされる作品がほぼ揃っている点が本展の特徴です。キュビスム、シュルレアリスムを経て、モデルに向き合って制作するようになり、最初は小さかった彫像が、徐々に大きくなる過程も見ていただけるようになっています。彫刻のほかにも、カフェやアトリエで常にスケッチしていたジャコメッティの素描や、絵画、リトグラフ作品も多く出品されます」国立新美術館の担当キュレーター、横山由季子さんだ。本展は、マーグ財団美術館の全面的な協力を得て実現したという。ジャコメッティのよき理解者だった画商エメ・マーグが、1964年に南仏のサン=ポール・ド・ヴァンスに創設した美術館。「マーグ画廊は今もパリにありますが、アートマーケットが確立しつつあった20世紀前半の美術を支えた画廊として特に知られています。制作に集中したかったジャコメッティにとって、作品の売買を委ねられるマーグは大きな存在だったでしょう。事実、美術館が開館する際には、35点の自分の彫刻作品を新たに鋳造し、マーグに提供しています。そのおかげでマーグ財団は、パリとチューリヒのジャコメッティ財団に並ぶ、世界3大ジャコメッティ・コレクションになっています」

左から/
《歩く男Ⅰ》
ほぼ人間サイズのブロンズ像。2010年には同じシリーズの作品が6500万1250ポンド(約94億円/当時)という高値で美術オークションで落札され、話題になった。マケット(試作用の模型)とともに出品される。/1960年 マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)
《犬》
ジャコメッティには珍しい動物モチーフの作品。雨のパリの街をうつむいて歩いていたときの悲しい気持ちから、自分を犬に重ねて作ったという彫刻。頭と尻尾を垂れ下げて歩く痩せた犬は、孤独の象徴?/1951年 マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)
《林間の空地、広場、9人の人物》
ひとつの台座に複数の人物を配した彫刻に取り組んだ時代の作品。痩せ細った人々が林立する配置は、アトリエで偶然発見したものだとか。本作のインスピレーションは、秋の林間の空き地で得たイメージ。静謐に立ち並ぶ木々と人間の孤高の姿が重なる。/1950年 マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

とりわけ本展のハイライトは、マーグ財団美術館の「ジャコメッティの中庭」から3つのブロンズ像、《大きな女性立像Ⅱ》 《歩く男Ⅰ》《大きな頭部》がやってくることだ。「3次元の彫刻は360度から見る楽しみがあります。 《歩く男Ⅰ》などはまさにそんな作品ですね。またジャコメッティは細長い作風が有名ですが、表面に独特な凹凸があるのも特徴。手で粘土をつけては取り除き、ナイフで削るなどしてできたものですが、そのためか、彫刻の目の前に立ったときに形が瞬時にはわからない。物としての実態が掴みにくいにもかかわらず、存在感がある。見る角度を変えると光の反射も変わり、見え方も違ってきます。胸像の場合は、〝眼差し〞に注目して正面から鑑賞してみてください」
 
1901年という20世紀が始まる年に生まれたジャコメッティは、著名な画家だった父のもと、幼少期から絵画や彫刻に親しんだ、いわば芸術家のサラブレッドだった。人柄は陽気ユーモアがあり、定番の食事はゆでたまご2個とコーヒー。成功したのちもシンプルな生活を変えなかった、愛すべき変わり者。ただし、芸術家としては超ストイック。モデルを徹底的に見つめ、その姿を彫刻や絵画に必死に捉えようと「試しては壊し」を繰り返し、自らの芸術を猛烈に追求し続けた。本展で出品されるのは、その闘いの結晶だ。彼が見つめた人間の真実とはなんだったのか。リアルな作品を目の前に、時空を超えたジャコメッティとの〝会話〞をぜひ楽しんでほしい。

辛酸なめ子さんの“人生イラスト”PART.1 
《鼻》右
全身の人間像とともに、人間の頭部というモチーフにもこだわっていたジャコメッティ。20歳の旅の途中で知り合った老人の死に立ち会った経験が、強く関係しているとも。本作も、その影響が感じられる作品のひとつ。/1947年 大阪新美術館建設準備室

Text: MAYUMI YAWATAYA Illustration: NAMEKO SHINSAN

  • 「ジャコメッティ展」
    6月14日~9月4日
    ㊡火10:00~18:00(金・土~20:00)
    国立新美術館 企画展示室1E
    一般¥1,600ほか
    ※10月14日~12月24日、
    豊田市美術館へ巡回。
     
    お問い合わせ/
    Tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)
    www.tbs.co.jp/giacometti2017/

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