女優の渾身の演技が胸を打つ、珠玉の2作品
今年のアカデミー賞で主演女優賞にノミネートされたジュリアン・ムーア、マリオン・コティヤール主演の2作品がいよいよ公開! みごとオスカーを受賞したジュリアンの『アリスのままで』、受賞は逃したもののマリオンの演技に心を揺さぶられる『サンドラの週末』。どちらも“女優ありき”といえる珠玉のドラマ、見逃すべからず!
友情かお金か、究極の選択の結末は?
映画を観ていると、ときどき“この女優さんじゃなかったら成立しなかっただろうな”と思える作品に出合うけれど、マリオン・コティヤール主演の『サンドラの週末』とジュリアン・ムーア主演の『アリスのままで』は、まさにそういうタイプの作品だ。ちなみに、2本とも今年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、『アリス~』のジュリアン・ムーアは見事受賞を果たしている。これも納得。
受賞は逃したものの『サンドラの週末』のマリオンのノミネートは、“快挙”といえる。なぜなら、外国語映画賞部門以外は、ほとんどが英語映画で占められる米国のアカデミー賞において、フランス語で撮られた小さなベルギー映画の主演女優が、強豪揃いの主演女優賞部門にノミネートされるなんていう例は、めったにない。
『サンドラの週末』は、『ロゼッタ』(99年)と『ある子供』(05年)で2度のカンヌ映画祭パルムドールに輝いているベルギーの名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟の新作だ。普段は無名のベルギー人俳優を使うことが多い監督だが、今回は、彼らがプロデューサーとして参加していたジャック・オディアール監督の『君と歩く世界』(12年)に主演していたマリオンの演技を見て感動したダルデンヌ兄弟が出演をオファーし、実現に至ったという。
物語は、ベルギーの小さな町が舞台。うつ病で休職していたサンドラ(コティヤール)は、復職しようという金曜日の朝、突然、会社から解雇を告げられる。解雇の理由は、他の社員にボーナスを支払うため。ボーナスか、サンドラの復職か。社長に掛け合い、翌週、月曜日の社員の投票により、決定することになる。週末を利用して、サンドラは同僚ひとりひとりを訪ねて、自分を復職させてくれることを頼んで回るが……。
お金か、友か。世界的不況の続くこの時代に、この映画が突きつけてくるのは、究極ともいえる選択だ。誰もが「自分ならどうする?」と問いかけずにいられない。
この物語は他人ごとではなく、私たちもいつ直面してもおかしくない問題。物語を現実的にしているのは、サンドラを演じているマリオン・コティヤールの力だ。精神的に脆弱だが、誠実な主人公が、自分の生活を守ろうと必死になりながらも、信念を貫く強さにたどり着く。そのゆらゆらと危なげにゆらめく心の旅は、心を打ち、感情を揺さぶられる。
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『サンドラの週末』
監督・脚本/ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演/マリオン・コティヤール、ファブリツィオ・ロンジョーネ
配給/ビターズ・エンド
公式サイト/http://www.bitters.co.jp/sandra/
Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開中
text : Atsuko Tatsuta