平野紗季子の食レポ!「物語は厨房にある」
2015年5月23日・24日の夜。6年連続でミシュラン3ツ星に輝く北品川「restaurant Quintessence」の岸田周三シェフと、アジアのべストレストラン50で上位獲得、今シンガポールで最もホットな「 Restaurant André」のアンドレ・チャンシェフによる、スペシャルなコラボレーションディナーが開催された。ダイナースクラブ主宰による世界を代表する才能のハーモニー、一体どんな食体験が待ち構えているのか……? 5月24日のスペシャルディナーに強運で飛び込んだ平野紗季子がレポートします!
えー、ディナーというか事件でした。はい。 今この文章を書いているのは事件から一夜明けて5月25日の朝ですが、未だに感動に煽られています(多幸感が二日酔いのようです)。あの現場で何が起こっていたのか。冷静に整理してみれば、二人のシェフが厨房に立ち、ひとつのコースを創り上げ我々と分かち合った、ということになります。しかしあの、あらゆる優雅なお膳立てをぽーんと飛び越えて会場を支配した高揚感は一体……。コラボレーションディナー、いや「岸田とアンドレのback to back」(※back to back/二人のDJが1曲ごとに交互に曲をかけて会場を沸かす行為)は、見事にフロアをロックし観客を熱狂させたのです。
「僕たちは15年前からずっとこの瞬間を待ち望んできました」とアンドレシェフは言う。実は彼らは、まだ自分の店を持つ前の、何者でもなかった時代に、パリのレストランで共に修業をしてきた仲間だったのです。“いつか高みで会おう”……そんな契りを交わしたかどうかはわかりませんが、あれから15年、互いがそれぞれに道を歩み堂々と世界に誇れるトップシェフとなった今、改めて肩を並べて料理をする。それってもう、少年マンガの世界じゃないですか。熱くなるしかないでしょう。誰でもいいわけじゃない、彼らだからこその必然が、この宴を圧倒的なものにしたのです。
料理は合計17皿。アンドレシェフから8皿、岸田シェフから8皿、二人の合作が1皿。皿数の多さはもちろん(「お互いやりたいことが多過ぎて品数が多くなっちゃいました」と岸田シェフは証言)、フォアグラに至っては2度出現!するなど、互いの押しも押されぬプライドが伝わり、次の一手が楽しみでたまらない展開。料理の味わいひとつにしても、アンドレシェフが外へ外へと拡散する華やかな旨みで魅了するならば、岸田シェフはぎゅっと凝縮した静かな旨味を湛える……というように、全く異なる個性が入り乱れて輝きます。
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平野紗季子さん
フードライター。1991年、福岡県生まれ。2014年3月、慶応義塾大学卒業。幼い頃から無類の食好きで、食にまつわる発見と感動を綴るブログが話題となり、現在は数多くの雑誌やウェブマガジンで執筆活動を行う。著書に『生まれた時からアルデンテ(平凡社)』がある。ブログはこちら。http://fatale.honeyee.com/blog/shirano/
photos & text : Sakiko Hirano