タルティーン ベーカリーはスイーツがおいしいことでも有名。チャドさんの妻であり、パティシエのエリザベスさんが考案したケーキやクッキーは、繊細でありながらどこか大胆。地元の新鮮な卵やフルーツ、選び抜いた上質なバターがふんだんに使われた何とも豊かな味わい。週に何度も買いに来るローカルが多いのもわかる。サンフランシスコの人気メニューは、レモンタルト（写真左上）、バナナクリームタルト（写真左下）、ブレッドプディング（写真右上）、ポピーシードのティーケーキ（写真右下）。中でもレモンタルトは地元グルメ雑誌が読者に聞いた「死ぬ前に食べたいデザート50」にも入ったほど支持が高い。東京店ではこれらを含む15種類のスイーツを販売予定。

どうしてこんなにおいしいブレッドとデザートを毎日作り続けられるのか。それはやっぱり“作る人”の高い意識、それを理解しているスタッフ、そして彼らのチームワークに理由があった。サンフランシスコの街を歩いていると必ず誰かに「元気？　最近どう？」と声をかけられるチャドさん。みんなが彼のブレッドと彼の人柄が大好きだというのがよくわかる。彼も親しみをこめて、それに答える。もちろん、チャドさんはお店のスタッフ一人一人も大事にし、まるで家族のように接する。そんな彼のパン作りに対するこだわりと今回の東京店オープンにどんな想いを持っているのだろう？

 「計画が始まってから3年かかったよ。日本のビジネスパートナーとお互い理解しあって、リスペクトして仕事をしたかったから」とチャドさん。今回のオープンにあたり、1年間、日本からパン職人をわざわざサンフランシスコに呼んで、タルティーン ベーカリーで研修を行ったそう。「日本人はひとつの ことを長い時間かけて学ぼうとする忍耐力がある。僕の最初の弟子だった日本人の女性を見ていてそれがよくわかった。僕にとってそういう働き方が理想。日本 人のもの作りへの姿勢も僕が東京でお店を出したいと思った理由の１つ」。子供の頃から日本人や日本の文化に接することも多く、日本の食やプロダクトに興味があったそう。彼が経営するレストラン「バー・タルティーン」では塩麹のワークショップを開いたこともあるほど。
 
できるだけ地元の食材を使うのも彼のこだわり。日本では北海道のアグリシステムで作られた有機栽培の小麦粉を使う。さらに「お店を通して、東京とサンフラ ンシスコの文化交流がしたい。僕のブレッドを日本に紹介するのと同時に、日本の食文化をサンフランシスコで紹介したい。例えば東京店では備長炭を使ってトーストする。そのスタイルはサンフランシスコにも持ち帰ろうと思っているんだ」。聞けば、彼のブレッドに日本の食材はよく合うそう。「スライスしたカン トリーブレッドに発酵バター、ラディッシュ、いくらをのせるのがお気に入り。その他にも麹漬けなど、魚を発酵、熟成させたものもいい。それから個人的には日本酒や焼酎にも合うと思っているよ（笑）」。東京店では、今年２月に清澄白河にオープンしたブルーボトルコーヒーを扱うそう。「コーヒーの味に対するこだわりはもちろん、彼らのチームワークを大切にした働き方を見て共感したんだ。彼らの拠点もサンフランシスコだし、一緒に東京で盛り上げられればいいね」。