けしてアクセスがよいとは言えない白金の住宅街のなかにあって、夜な夜な食いしん坊の大人たちが集まるフレンチ「オー ギャマン ド トキオ」。この地下に10月1日誕生したのが「カーヴ ドゥ ギャマン エ ハナレ」。入ってすぐはレンガ造りのバースペース「カーヴ」。奥にはオーナーシェフの木下威征さんが目前で腕を振るう8席のカウンター、「ハナレ」。もともと「ギャマン」のウェイティングバーとして計画しただけあって、上に行く前やほかで食事したあとに飲むもよし、シェフの料理をカウンターで堪能するもよしと、気分に合わせて2つの顔を使い分けることができるスペースだ。
 
鮨屋を彷彿させる檜のカウンターには和食器が並び、席には箸置き。日替わりのメニューを見れば銀杏と車海老のフリットやのどぐろの炭火焼など、和の食材を主役にした料理が並ぶ。「お客様のなかには世界を舞台に活躍している方も多い。その皆さんに共通しているのが、日本への誇りと愛。海外からの逆輸入でその魅力に気付くのではなく、自らしっかりと向きあって海外へ発信していくべきだと次第に自分も思うようになったんです」（木下シェフ）。その思いが、和の食材を活かした料理を和食器と箸で食べてもらうという「ハナレ」のオリジナルなスタイルを生むことになったのだ。
 
とうもろこしのムースと生うに、砂肝のコンフィと丹波栗のソテー、さらには白モツ煮込みや梅ラーメン。「ハナレ」のメニューは、単に和を意識しただけでなく、ジャンルレス。「この道に入って20年、先輩やお客様とのやりとりを通して、“おいしいものを食べて喜んでもらうことが料理人の喜び” と痛感するようになりました。学んできたフレンチの技法は最大限に活かしますが、そこに固執することなく、目の前のお客様が今一番食べたいものを一番喜んでもらえる形で提供したいと思っています」（木下シェフ）。
 
トリュフの得も言われぬ香りをまとったスフレをできたての熱々で頂ける「ふわふわトリュフのスフレオムレツ」、わさびと和風のラタトゥイユを添えた「あん肝のテリーヌ」、甘海老の旨みを凝縮したソースが濃厚なナッツの味わいとからむ「カシューナッツ豆腐」。和の素材とシェフの技術、そして遊び心が織りなす“木下料理”。日替わりのメニューのほか、カウンターに並ぶその日の食材を見ながら食べたいものを自由にリクエストできるというのもこの8席の特権だ。
 
今後は「自分が先輩や周りの人に助けられてきたように、後輩にもチャンスをあげたいし、夢を見てほしい。上の店名の“トキオ”が、“パリ”“ロンドン”“NY”と広がるくらい、世界中に同じ志をもつ仲間のステージを作っていけたら」という木下シェフ。料理にも“人”にも熱い想いが溢れるシェフへ、カウンターから“今日一番食べたいもの”をリクエストしてみてはいかが？