初回は、カタルーニャの伝統菓子「Mel i mato（メル・イ・マト）」をご紹介します。こちらはバルセロナにあるバル、「Miscellània Gastronòmica Betlem （ミスセラニア ガストロノミカ ベットレム）」。エンジとエメラルドグリーンを基調とした外観が、アシャンプラ地区の中でも比較的静かな住宅街、Girona駅前ではちょっと目を引く存在。お店のドアには、1892年創業と記されているけど……。

「お店自自体は、今年の夏でまだ3年めなのです。1892、としたのは、この場所には1892年からずっと食に携わるお店が建っていたという逸話があるから。ぼくの両親も40年間ここで食材店を営んでいたし、その前からずっとここは、この町の胃袋を支えてきたというわけ。お店の目印のえんじ色も、昔からこの色だったということで、そこは変えないでおこうと。もちろん、新しく塗り替えてはいるけどね」と、オーナーシェフのVictor Ferrer （ビクトールフェラール）さん。

なるほど、昔からの伝統を保ちつつ、遊べるところには手を加える、ということのようだ。そういう概念が、毎日料理をする上でのヒントやバイタリティになるのだとか。お店の窓には、「良いワインを飲み、良いパンを食べていれば、医者知らず」と書かれています。これは、Victor（ビクトール）さんの家族から教えてもらったというカタルーニャ地方の古いことわざなのだそうで、「毎日の健康は食事から、ということだよ」と語ってくれました。

さて、こちらが本日の主役、デザートの「Mel i matò amb pell de taronja i gelat de iogurt （メル・イ・マト アム ペイダタロンジャ・イ・ジェラトデイヨグール）」（5.60ユーロ）。日本語にすると「はちみつとチーズ」、そのままですね（笑）。これはカタルーニャの伝統菓子のひとつで、通常はカッテージチーズにはちみつをかけて食べるもの。お店には5種類のデザートがあるのだけれど、これはお客さまから大好評の定番スイー ツのひとつで年間を通じて食べることが出来ます。
一見シンプルだけれど食べてみると濃厚なこのデザート、けっこうずっしりと重たいスペイン料理の後には、食べたくてもお腹に入らないことも多いのですが……こちらのお店のものは、クリーム状で軽い食感のMato（フレッシュチーズ）にオレンジピールを混ぜてあり、程よい酸味が特徴。しっとり食感のMatoに、はちみつ、さっぱりしたヨーグルトアイスクリームを加え、アラブ菓子のKataif（カタイフ）に使う細い麺状のパイを下に敷くことで、パリパリした食感をプラス。さまざまな食感が一度に楽しめる構成になっています。ここのMel i matòなら、おやつタイムも、食後にもペロリと食べられそう。

バルセロナでは、デザートの定番のひとつであるMel i matoは、カタルーニャの人々にとってはなつかしいおやつ。カタルーニャでは、週末に家族みんなで昼食をとることが多く、住んでいる地域によっては、食後にママの手作りMel i matò が出てきてみんなで楽しむこともあるのだとか。このMel i matòは小さい子からお年寄りの方まで、嫌いな人はいないのでは？　と思えるスイーツ。特別な行事でなくても、一年を通通じて楽しむ、まさに伝統的なおやつのひとつなのです。お店や家庭によって、使うチーズが違ったり、いろいろなものをプラスしてオリジナリティを出したりもしています。シンプルであきのこない味は、きっと日本のみなさんにも食べやすいはず。バルセロナにきたら、一度は食べてみてほしいデザートなので、ぜひ試してみてください。