インタビュー 2014/8/21(木)

誘拐されて、結婚!? フォトジャーナリスト・林典子さんが捉えたキルギスの慣習

中央アジアの小国、キルギス共和国では既婚女性の約3割が誘拐されて、合意なく結婚を受け入れさせられているという。こうした“誘拐結婚”をテーマにキルギスの村を訪れて長期間の取材・撮影を重ね、全米報道写真家協会の2014年フォトジャーナリズム大賞を受賞したフォトジャーナリスト・林典子さんは、まさにエル・オンライン世代の女性。被害にあった女性たちの“その後”の暮らしも追った写真集『キルギスの誘拐結婚』を発表したばかりの林さんに、何を感じ、何を想うか聞いた。

女性が誘拐されて、結婚する? 日本で暮らしていると想像もつかないようなことが、世界のどこかで起きている。中央アジアに位置するキルギス共和国の“誘拐結婚”は、そのひとつと言えるかもしれない。そして、この衝撃的な慣習を4カ月かけて取材&撮影したのが、30歳の気鋭フォトジャーナリスト・林典子さんだ。 
 
男性側の家族に花嫁の象徴である純白のスカーフを無理やりかぶせられ、泣きながら抵抗する女性。人生をあきらめたような表情で、結婚式で誓いをする女性……。誘拐された女性は、男性の家に連れて行かれ、親族に何時間も説得され続けた末に結婚を了承するケースも少なくない。そうしたキルギルの人々を撮影しながら、そのレンズの裏側で、林さんは人権の大切さとともに女性の幸せとは何か、仕事とは何か、という普遍的な問いをも見つめ直したという。 
 
――何をきっかけに、キルギスの誘拐結婚を知ったのですか? 
 
大学時代に国際紛争や国際政治を勉強していて、人権団体の報告書を読んで知りました。卒業後しばらくたってフォトジャーナリストになり、特に現地でのあてもなかったのですが、この目で実態を確認したくてキルギスまで取材に行く決心をしました。言葉のインパクトと衝撃的な写真だけが先行しそうですが、私は言葉の奥にある本質を知りたかったですし、もっと人に寄った取材をしたかったので、滞在できるだけの長い期間、生活に関わりながら取材を重ねることにしました。 
 
――誘拐された女性の8割が最終的に結婚を受け入れるというのは、本当ですか? 
 
はい、現地のNGOによるとそのような調査結果があります。女性の合意のない誘拐結婚は違法なのですが、犯罪として扱われることはほとんどありません。女性はいったん男性の家に入ると純潔が失われたとみなされ、そこから出るのは恥とされることも要因しているようです。このような文化的背景もあって、あきらめて結婚を受け入れる女性が多いようです。 
 
――誘拐結婚という方法は、キルギス特有の文化や伝統なのでは? 
 
実は、私も最初はそう思いました。誘拐結婚の末、幸せに暮らしている老夫婦にも会ったので、自分の常識でよその国の伝統を批判したり、西洋的な価値観だけで伝えるのはおかしくないか?と。しかし、滞在しながら調べていくうちに、誘拐結婚は伝統ではなく20世紀になってから増えてきた“流行”で、れっきとした違法行為だということが分かりました。ソビエト連邦の共和国になる以前、キルギスでは親が決めた相手との見合い婚が主流でした。そんななか、親のいいなりではなく自分が決めた人と結婚したいがために、好きな男性に連れ去られて、いわば「合意」のもと駆け落ちで結婚する女性が増えてきた。それを“アラ・カチュー”(キルギス語で奪って去るの意味)と言ったのですが、どういうわけか、近年、暴力的に連れ去られる女性が増加してきてしまった。まさに文字通り、誘拐結婚になってしまったわけです。

  • Profile:林典子(はやし・のりこ)
    フォトジャーナリスト。「ニュースにならない人の物語」を追い求め、世界を飛び回る。英国ロンドンのフォト・エージェンシー「Panos Pictures」所属。キルギスの誘拐結婚の写真は世界的に広く注目され、フランスの報道写真祭の特集部門で最高賞、全米報道写真家協会フォトジャーナリズム大賞の現代社会問題組写真部門で1位を受賞。6月に写真集『キルギスの誘拐結婚』(日経ナショナル ジオグラフィック社/¥2,600)を上梓。今後も自分のアンテナに忠実に、報道されていないストーリーを形にし続けたいと語る。 
     

    『キルギスの誘拐結婚』の詳細はこちら>>
    http://nationalgeographic.jp/nng/sp/kyrgyz/

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photo:Yoko Yamashita text:Kyoko Takahashi 

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