5月1日、METガラよりもずっと大事なこと ~仏“ブラヒム・ブアラム事件”を忘れない~
ニューヨークがファッションの祭典、METガラでアナ・ウィンターの思惑通りに集ったメーデーにあたる5月1日。同じ日、パリではひっそりとある殺人事件の被害者への追悼式が行われていた。22年前のこの日起こった“ブラヒム・ブアラム事件”とは?
フランス新大統領を決める決選投票を1週間後に控えた5月1日(月)、大統領候補のひとりエマニュエル・マクロンは、セーヌ川沿いで花束とともに哀悼の意を捧げていた。そこにあったのは、ブラヒム・ブアラム事件の記念碑。もちろんもうひとりの候補、マリーヌ・ル・ペンは欠席していた。
事件が起こったのは1995年5月1日、当時29歳だったモロッコ人青年、ブラヒム・ブアラムさんが、ルーヴル美術館のすぐ近く、カルーセル橋あたりからセーヌ川に投げ落とされた。彼を落とした犯人は、マリーヌ・ル・ペンの父、ジャン=マリが当時率いていた極右政党、国民戦線のデモ行進に沿って歩いていた男たちだった。
22年前もちょうど今回と同じく大統領選決選投票の直前だった5月1日。ジャック・シラクとライオネル・ジョスパンが勝利した第一回目投票で十分に得票できず、党首ジャン=マリ・ルペンが落選したFN(国民戦線持者)の支持者たちはパリの街をデモ行進。そこに出くわしたのがブアラムさんだった。子ども2人を抱える父親は水量が増した川で泳ぎ切ることができず溺死したとされている。
なぜこの事件に、再びスポットライトを当てる必要が出てきたのかといえば、22年前と同じ大統領選のただ中だから、という理由だけではない。この殺人がヘイトクライムの恐ろしさを端的に示しているから。
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Photo : Aflo, Getty Images