特集 2015/3/31(火)
世界のおやつ from Bologna / Mari

期間限定! “イタリア菓子職人の父”が作るパスクアのお菓子「コロンバ」

サン・ヴァレンティーノ(San Valentino:バレンタインデー)」や「カルネヴァ―レ(Carnevale:謝肉祭)」、「フェスタ・デッラ・ドンナ(Festa della donna:女性の日)」といった気持ちを春めかせてくれるイベントが矢継ぎ早に過ぎ去ったあと、イタリア人に本格的な春の訪れを告げてくれるイベントがパスクア(Pasqua:復活祭)。人々の罪を背負って十字にかけられたイエス・キリストが3日目に復活したことを祝うキリスト教の世界ではとても重要な行事です。今回はそんなパスクアに欠かせないイタリアンドルチェをご紹介します。

パスクアは「春分の日の後の最後の満月の次の日曜日」と定義されており、日本のようにグレゴリオ暦を採用している地域では3月22日から4月25日の間となります。毎年、パスクアの1ヶ月ほど前になるとお菓子屋さんやスーパーには、パスクアの代表的ドルチェである卵型のチョコレート「ウォヴォ・ディ・パスクア(Uovo di Pasqua:イースターエッグ)」と鳩の形をしたパン菓子「コロンバ(Colomba:白い鳩)」が2大勢力として並び始めます。
 
キリスト教の多くの国々では、卵そのものやチョコレートの卵で復活祭を祝う習慣があります。イタリアの「ウォヴォ・ディ・パスクア」には、赤ちゃんの手に収まる小さなものから、赤ちゃん自体がすっぽり入ってしまいそうな特大のものまでさまざま。子ども向けには、卵の中に人気キャラクターのおもちゃが入っているものもあり、毎年子どもたちは卵を割るのを楽しみにしています。小さい卵でも時計が入っているかと思えば、大きいのにカード数枚だけ……という場合もあり、本当に開けてびっくりのお楽しみです。

そして、今回特に紹介したいのが、イタリア独自のパスクアのドルチェである鳩の形をした「コロンバ」(上記写真の箱の中に「コロンバ」が入っています)。この「コロンバ」の起源を調べてみると……諸説あるのですが、612年ごろのロンバルド王国の伝説と関わりがあるようです。アイルランド人の修道院長サン・コロンバーノ(San Colombano)がロンバルド王国のテオドリンダ(Teodolinda)女王のもとへ訪れた際、女王は彼とその修道士たちを豪華な昼食へ招待します。ローストされたジビエなどさまざまな料理がふるまわれましたが、サン・コロンバーノは四旬節(※)の期間中のため贅沢な肉を食べることを断りました。四旬節の習慣を理解しなかったテオドリンダ女王は、気分を害して険悪なムードに。しかし、すぐさまサン・コロンバーノは神の祝福を受けたあとの肉であれば食べることができると女王に説明し、右手を肉の上にかざして十字のサインを切ります。すると、ローストされたジビエは修道士たちのガウンのように真っ白な鳩の形をしたパンに変身したというのです。
この伝説を聞くと、イタリアでは「コロンバ」をパスクア前に食べる習慣が古くからあったかのように思いますが、実際「コロンバ」がパスクアのドルチェとしてイタリアの家庭に広まったのは1930年代。当時、クリスマス用のパン菓子パネットーネ(Panettone)を既に作っていたMotta社が、自社の機械とパネットーネ用の生地を有効活用するために、「パネットーネ」に似たパスクア向けの鳩型パン「コロンバ」を考案したのです。要は、先にご紹介した伝説のようなものに企業戦略を絡めて「コロンバ」は誕生したということです(企業の思惑をきっかけに日本の文化に定着した「バレンタインデー」思い出さずにはいられません)! そんな「コロンバ」ですが、もう80年以上もイタリアのパスクアには欠かせないドルチェであり、イタリアの伝統的な農産物加工製品(P.A.T.=Prodotti agroalimentari tradizionali italiani)のリストにも公式に掲載されている列記としたイタリアを代表するドルチェのひとつとなっています。
 
今回は、そんなイタリア発のパスクアのドルチェ「コロンバ」を求めて、ボローニャ郊外のパスティッチェリアへ足を運びました。菓子職人を目指している方なら、看板を見ただけで「おおーっ!」と思うこと間違いなしのパスティッチェーレ(Pasticcere:菓子職人)が、自身の名を冠したお菓子屋さん「ジーノ・ファッブリ パスティッチェーレ(Gino Fabbri Pasticcere)」です。一歩お店に足を踏み入れると、そこにはジーノさんの栄誉を称える盾やトロフィーなどがたくさんありました。
 
※四旬節とは、カトリック教会などの西方教会で、復活祭の46日前の水曜日から復活祭の前日までの期間を指し、食事の節制と祝宴の自粛が行われます。

どれほどまでにジーノさんがすごい方なのか、ということをまずご紹介すると……。1965年から菓子作りに携わり、1996年にイタリアの名高い菓子職人協会「アッカデーミア・マエストリ・パスティッチェーリ・イタリアーニ(AMPI=Accademia Maestri Pasticceri Italiani)」のメンバーに。2009年にはAMPIのメンバーから、プロフェッショナリズムと菓子作りにおける継続的な品質の追求、そして惜しみなく自身のもつ知識を皆に広める功績を称えられ「年間最優秀パスティッチェーレ(Pasticcere dell’anno)」に選出される。その後2011年にはAMPIのプレジデント(現職)となり、2015年にはイタリアのリミニで開催されたSigep(ジェラート、菓子ケーキ、職人の作るパン国際展示会)では、イタリア菓子職人の父として世界に製菓芸術を広めた功績を称えられ表彰される。また同じく2015年には、世界最高峰のお菓子作りのコンクール「クープ・デュ・モンド(Coupe du Monde)」のイタリアのプレジデントとして、イタリアチームを18年ぶりに世界一に返り咲かせる。つまり、イタリアで一番由緒ある菓子職人協会のトップで、世界最高峰の菓子職人大会のイタリア代表チームの後見人。これからイタリアの菓子業界の未来を担う菓子職人をまとめ育成する立場にいらっしゃる重要な方なのです。ということで、どんなに厳格な方なのだろうか……と、少々緊張してジーノさんをお待ちしていると、工房の中から非常に笑顔の素敵なやさしそうな“おじさま”が登場しました。

この方がジーノさん。イタリアの菓子職人業界の中でゆるぎない地位を確立されているというのにも関わらず、少しも偉ぶることなく、親切丁寧にご自身の菓子作りに対する哲学や「コロンバ」に関する話を語ってくださいました。まず、はじめに「なぜ「コロンバ」は、イタリアだけでパスクアの菓子としてここまで広まったのか」ということを伺ってみると、「フランスでは、パン屋が作るようなパン菓子を手掛けることは菓子職人にとって名誉あることではないと考えられています。しかしイタリアでは、パン菓子を作ることは並々ならぬ専門性が必要であることが理解されており、おいしいパン菓子を作れるようになることは菓子職人として非常に名誉なことなのです」と教えてくださいました。イタリアの菓子職人たちのパン菓子に対する情熱によって、私たちはおいしい「コロンバ」をいただけるのですね。
 
そんなイタリアで脈々と育まれてきた「コロンバ」の作り方を工房の中で説明していただきました。ジーノさんが手掛ける「コロンバ」は4種類。シンプルな生地に小さい角切りの砂糖漬けオレンジピールを加えた「Classica(クラッシカ)」。アーモンド風味の生地に柔らかなアプリコットの砂糖漬けを加えた「Delizia(デリツィア)」。ヘーゼルナッツ風味の生地にチョコチップを加えた「Divina(ディヴィーナ)」。そして何も加えず極上の柔らかさを体験できる「Nuvola(ヌーヴォラ)」。どれも、想像しただけで垂涎ものです。
 
>>次のページでは、「コロンバ」作りを拝見!

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  • Gino Fabbri Pasticcere(ジーノ・ファッブリ パスティッチェーレ)
    Via Cadriano, 27/2, 40127, Bologna, Italia
    Tel. +39-051-505074
    営業時間/7:00~19:00 土曜は~13:00、15:30~19:00(5月から9月は~13:00)
    定休日/日曜、祭日
    http://www.ginofabbri.com/

  • Mari●大手経営コンサルティング会社にて経営コンサルタントとして勤務後、2006年に渡伊。2人の男の子のマンマをしながら「フェリチターリア」の通訳・翻訳者、個人旅行同行アシスタントとして、「食の都」ボローニャを中心にイタリアの魅力を発信中。
    http://www.felicitalia.net/

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