父の死の前後一か月に撮った、蜷川実花のうつくしい日々

エル・エディターが気になるものをリアルな目線でお伝えする、デイリー連載OKINI。カルチャー・ライフスタイルエディターYOKOが打たれた、期間限定の珠玉の写真展。今週金曜までなので、チャンスのある人はぜひ!

©Mika Ninagawa

 現在、原美術館で開催中の「うつくしい日々」。蜷川実花さんが、父・幸雄さんが倒れ亡くなるまでに撮りためていた写真を展示した、たった10日間の展覧会です。私が原美術館に行った日は、偶然にも幸雄さんの命日。五月の光がきれいな午後でした。
 まず驚かされるのが「実花さんって、こんな写真も撮るんだ」ということ。いつものヴィヴィッドな色彩や挑発的な視線は影をひそめ、花びらや、空にたゆたう電線、からっぽの劇場が、ひっそり並んでいます。自らも「なぜこんな写真が撮れたかわからない」と言うくらい、日常の風景が語りかけてくる。世界のすべてに意識のピントが合ってしまう、そんな奇跡のときがあるんですね。

©Mika Ninagawa

その日は午後から撮影の仕事が入っていた。
父は今日、なくなるんだろうなとわかっていた。
朝起きたら信じられないくらい空が青くて、あまりにも綺麗だった。
どうせ逝くならこんな日がいいよね、って思った。

©Mika Ninagawa

幸雄さんが倒れたのは2014年。実花さんはすぐに香港に飛び、集中治療室に入れ、撮影の仕事のために「じゃあね」と言って帰国したという。その後、大演出家は奇跡の復活を果たし、4つの新作を発表するけれど、実花さんはロケのたびに「これが最後かも」と思いながら、出かけたという。そして“その日”も「じゃあね」と別れて、撮影に行ったと言うのです。
そう、彼女はいつも自分の撮影に出かけるのです。お父さんがギリギリまで酸素吸入器をつけて稽古場に行ったように。
それぞれ別の時間、空間を生きてるのに、視線を重ねるように撮影された写真からは、強い父娘の関係がまっすぐ伝わってきます。

一方で抑制のきいた写真はいろんなメタファーを含み、気づけば自分の経験と重ね合わせ、感情移入せずにはいられません。共に表現者である娘から父へのレクイエム。幸雄さんが逝ったあの日から1年たった今だけ出合える、珠玉の展覧会です。

  • Illustration Daichi Miura

    YOKO:カルチャー、ライフスタイルエディター。SVOD離れが進んでいた最近だけれど、月末からの「ハウス・オブ・カーズ」シーズン5で再び中毒が始まりそう。

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