エディターズPICK 2018/3/28(水)
FROM ELLE WORLD

多様化が進むいまは、“ニューパンク”の時代? モードとパンク、永遠に続く熱い関係

反骨精神は、結局のところ外見に表れる? ダイバーシティやセクハラ、マイノリティ問題に対するステートメントが声高に叫ばれるいま、再び注目を集めているのがパンクなファッション。UK版「エル」のファッション フューチャー ディレクターのケンヤ・ハントが、その熱い関係を深掘り。

Photo:Getty Images

ブランドやデザイナーがあからさまに、世界的な出来事や政治、時代思潮に対して意思表示をしているという点で、おそらくファッションが近年の歴史上もっとも“自己”をもっている時代と言えるだろう。2018春夏コレクションのランウェイでは、性差別=「ディオール」と「プラダ」、“フェイクニュース”=「バレンシアガ」、アメリカ主義=「カルヴァン・クライン」、英国主義=「プリーン」……と、たくさんのメッセージが発信され、大胆なステートメントと、男性優位社会、支配階級などに向けた、作り手側の視点が大いに盛り込まれたシーズンだった。

「バルマン」2018春夏コレクションより photo:IMAXTREE

なので、反骨精神の象徴であるパンクファッションの復活に驚きはなかった。新しいアイディアではないけど、昨今のムードに完璧にフィットしている。今季、ファッション界の多くが、生きる喜びに満ちあふれたスパンコールや楽観主義、レインボー、エレガンスとグラマーさで現体制に反抗していた一方で、直球ともいえるバイトピアスやスタッズで表現するブランドも依然としてあった。

それらのルックは“ニューパンク”といえる。呼び名よりもアティチュードを重視する、ポストパンク(’70年代後半のパンク・ロックブームを受け継ぎ、’80年代前半に英国などで勃興した音楽ジャンル。ニューウェーヴ)のミックスとして考えてみて。不良少年に、カジュアルなスキンヘッド、そして少量のデスロックやモッズ、そしてマルコム・マクラーレン(※1)時代の「ヴィヴィアン・ウエストウッド」を少しだけ混ぜたような。

(※1)マルコム・マクラーレン:セックス・ピストルズの仕掛け人であり、デザイナー、ミュージシャン。1971年にヴィヴィアン・ウエストウッドとともにブティック「Let It Rock」をオープン。

右 マルコム・マクラーレン(Malcolm  McLaren) 左 ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)1977年  photo: Getty Images

左から 「バレンシアガ(Balenciaga)」、「ケンゾー(Kenzo)」 2018春夏コレクションより Photo: IMAXTREE

「バレンシアガ」と「ジュンヤ・ワタナベ」は、武器かもしれないと思うほど大きく鋭いスタッズがモデルのシューズや頭に施された’80年代スタイルを提案。それはまるで、ポピュリズムが増大するバブルを弾けさせるための鋭利なカギ爪をした中指のよう。一方、「ルイ・ヴィトン」や「ケンゾー」が提案したのは、ジョーイ・ラモーンのようなシャギーなヘアスタイルと、相反するツヤツヤの黒いレザーやパテント使いで魅せる、より未来的なパンクだった。そして「プラダ」は、マニッシュなムードにブラックテーラリングとレトロなボタンダウンシャツ、そこにスタッズという、’60~’70年代フィーリング。「アレキサンダー・マックイーン」や「モスキーノ」のバイカーブーツ、「バーバリー」のチェック×レインボー、「バルマン」や「ヴェルサーチ」のスタッズ付きレザー……。普段、パンクを掲げていないコレクションでさえ、そのエッセンスがちりばめられていた。

ジャン=マイケル・クァミエ(Jan-Michael Quammie)Photo:Getty Images

「パンクは反抗であり反骨精神を意味していて、それはこれからもずっと変わらない」と語るのは、パンク&ロックな着こなしで知られるスタイリストのジャン=マイケル・クァミエ。「決してトレンドではなく、タイムレスで、ライフスタイルそのもの。パンクとは反画一化。つまり、個々が異なっていて、だからこそ格好よく見える。サブカルチャーのなかの否定できない抵抗感であり、外見はその一部なんです」

 

スリック・ウッズ(Slick Woods)Photo: courtesy of Slick Woods(@slickwoods) via Instagram

モデルのスリック・ウッズとリアーナは、とてもニューパンクなふたりだ。特異な存在でいようという強いメッセージとともに、稀に見るクールな“ファックユー”スタイルを実践する彼女たち。いじめと人種的不公平に立ち向かう行動を呼びかけるリアーナのセルフィーや、全人種の女性に対応することをコンセプトに掲げた「フェンティ ビューティ」の宣伝はよい例。一方、自分のことを“頭のはげたバカ”と称し、リアーナをスピリット・アニマルに掲げるファッションモデルのスリックは、自身のソーシャルチャンネルを、勇敢にも黒人の人権擁護の重要性について語るために使っている。

  

@FentyBeauty 

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FKAツイッグス(FKA Twigs)Photo: Getty Images

ファッションにおいてパンクが独特なのは、外見がその人の思考や見解と密接に結びついているから。だから本来、パンクはそう簡単に真似できない。だが実は、セックスピストルズのシド・ヴィシャスはファッション雑誌を買い、ルックをそのままコピーしたことでよく知られている。「(彼は)完全なるファッション・ビクティムでまったく似合っていない。まるで服に着られているようだ」と、パンクの草分け的存在のジョニー・ロットンは、自書『Rotten:No Irish, No Blacks, No Dogs(原題)』の中で語っていた。(一方、昨年、ロットンが英国のEU離脱支持同様、ドナルド・トランプを支持したとき、多くの人の目には彼はパンクを捨てたと映っただろう)

このように、パンクは常に完全なオリジナルではない。例えば、筋金入りのレジェンドでもある、アメリカのロックバンド、ミニットメンマイク・ワットは、13歳のときにクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルのジョン・フォガティの着こなしを真似したおかげで、今では彼のシグネチャーであるフランネルシャツに偶然出合った。圧倒的なパンクの女王、パティ・スミスのトレードマークであるヘアスタイルは、10代の頃、フォーク時代に知り合った男の子たちのカットに倣ったもの。そしてリアーナも過去には、グレイス・ジョーンズやNYのカウンターカルチャー的ナイトライフムーブメントのGHE20GOTH1K(ゲットー・ゴシック ※2)をマネしていると非難された。

(※2)M.I.A.のDJ、ヴィーナスXと、「フッド・バイ・エアー」のデザイナー、シェーン・オリヴァーが主宰したNYアンダーグラウンドを席巻したパーティ。2014年に活動休止。

「プラダ(Prada)」2018春夏コレクションより Photo: IMAXTREE

はじめからすぐに、過激なパンクピープルにはなれない。ほとんどの人は、試行錯誤と少しのシミュレーションを繰り返しながら、声やスタイルを磨いている。多くのファッションと一緒で、あなたがそこに行き着くまで、ある程度の見せかけは仕方ない。つまり、ずっとなりたいと思っていた勇敢な変革者に実際になるまで、その一部を身にまとうことは必要だ。今シーズンは、“ニューパンク”へのスタートを切るのにちょうどいいワードローブのオプションがたくさんあるのだから。

translation: SHIHO AMANO

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