「コシェ」のデザイナー、クリステル・コシェールは、セント・マーチン美術大学を卒業後、「クロエ」や「ドリス ヴァン ノッテン」などのビッグメゾンでキャリアを積んだ若手実力派。2010年にシャネル傘下の老舗クチュールアトリエ「ルマリエ」のアーティストティック・ディレクターに就任し、2015年には”LVMH ヤング ファッションデザイナーズ プライズ”（LVMHプライズ）のファイナリストにも選出。そして同じく、2016年6月10日にパリでグランプリが発表される2016年度のLＶMHプライズにもノミネートされている。

そんな若きデザインの旗手に、クリエイションについてインタビュー。

Q 自身のブランドを立ち上げたきっかけは？

長年、フランスの老舗メゾンでクチュールテクニックとクラフツマンシップを習得してきましたが、それをよりカジュアルに、デイリーに、ストリートに表現したいというビジョンがあったんです。そして2014年、経験とコンディションが整ったとき、私の考えを提案するグッドタイミングだと思ったんです。

Q 「コシェ」のランウェイショーは、いまやパリコレの名物になっていますよね。

先シーズンは駅直結の地下街、今シーズンはパリ10区にあるトラディショナルなアーケード街をショーの舞台にしたの。リアルな生活の場所で開催することで、限られた人だけでなく、一般の人もショーを観られる――それが、モードとリアリティのミックスで、ブランドコンセプトの重要なパーツなんです。今回のショー会場は、移民が多く、さまざまなカルチャーが交じりあったパリで最もエネルギッシュな場所。プロフェッショナルな人と地元の人が交じりあうなかで、モデルがアーケードを飛び出してキャットウォークするのを見て、とてもユニークで興奮したわ。

Q モデルのキャラクターもバリエーション豊かですね。

そう、面白いキャラクターや個性的な人をストリートキャスティングしたり、知り合いの女優やミュージシャン、ダンサーなど、インスピレーションを受ける人にモデルをお願いしたの。なかにはトップモデルもいるんだけど、ただスタイルがいいだけでなく、強くて光るエナジーを持っている人をキャスティングしたわ。もちろん、メンズも。さまざまな国籍やジェンダー、個性が入り混じることで、さらなるエネルギーが生まれると実感しています。

Q 2016-17秋冬コレクションのテーマは？

毎シーズン、何かひとつコンセプトがあるというよりも、そのときのムードが重要。“ストリート・クチュール”というコンセプトに、そのときどきのムードを取り入れています。例えば今シーズンは、兄弟がモトクロスをやっているので、それを写真に撮ったものをプリントに落とし込んでいます。ほかにも、アーティストのエイドリアン・ゲニー、イサ・ジェンキン、ラッパーのトミー・ジェネシス、デヴィッド・リンチ監督『ワイルド・アット・ハート』、往年女優のマレーネ・デードリッヒやグレタ・ガルボ……。重要なのは、その人物や作品ではなく、それらをレイヤーしていくことでひとつのムードにすること。そこに、ストリートやリアリティをミックスしてコレクションを構成しています。

Q 尊敬するデザイナーは？

川久保玲。“強い女性像”を世の中に発信した彼女を、クリエイターとしてリスペクトしているわ。ほかにも、山本耀司、三宅一生、高田賢三など、デザインもカットも自分で行う日本のデザイナーから多くを学びました。日本の雑誌もよく見ているし、原宿や下北沢のストリートカルチャーからも刺激を受けているわ。ロンドンにもNYにも住んでいたので、いろんな文化を自分の中に取り入れて作品として表現するのが私の軸。今シーズンのショーの後、パリでルックブックを撮影し、NYのチャイナタウンでも撮影したの。東京でも撮影したいと思っているの。さまざまなカルチャーをブリッジして、作品を通して繋げることこそ、私が伝えたいメッセージなの。