エディターズPICK 2014/12/26(金)
ニッポン文化が絶滅の危機!?

日本人建築家、森俊子さんが語るデザインの現在と未来

国内外で高い評価を集めている日本のモダニズム建築が消滅の危機!? そんな現状にファッションシーンを代表して、「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイティブ・ディレクター、トーマス・マイヤーがいち早く立ち上がり、熱心なサポーターとして新プロジェクト#MyMomentAtOkuraを始動。それを受けて、トーマスの別荘の設計も手掛けて深い親交があり、世界で注目を集める日本人建築家の森俊子さんに、ものづくりについて、デザインの現在、未来についてインタビュー!

「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイティブ・ディレクター、トーマス・マイヤーと、森俊子さん。

Q:建築、ファッションとジャンルは異なりますが、同じクリエイターとしてトーマス・マイヤーの創作についてどのように思われますか?

私はトーマスとお付き合いしながら、作品をみたり実際自分でも着用していますが、いちばん感じることは流行にまったく左右されない普遍性のあるファッションということ。実は、作り方や特にクラフトに凝っている点など、建築家にとっても勉強になるデザインなんです。大変丁寧に作られているということが特徴。これは建築にも通じていて、時代や生活観が変化しても建物自体が時間の流れとうまく融合して、そのときに丁度良い表情を現すように気を配りますが、彼のクリエーションはまったく同じ。タイムレスでいながらアップトゥデイトという新鮮さを失わないエレガンスがあります。芸術的な発想で、シーズンごとに毎回ハッとするコレクションを発表していらっしゃることに感心します。

Q:建築家として設計するうえで、どういったことを重視されますか?

私がトーマスの作品に共感するのは、建築設計の過程で同じような感覚で進めているからです。現代感覚がありながら、「長く楽しく使える建物を」と考えていますし、符号的な年代が当てはまらないような建築にしたいと思っています。また、形も大切ですが空間の情緒とか感性的なものを創ることで、無機的なものから人間性をもった建築ができていくのだと思うんです。とりわけ物の作り方や材料などは、それぞれの土地特有のものを取り入れ、普遍的なコンセプトをベースにローカルな感覚を重視するように心がけていますね。それぞれの土地の文化や慣習も取り入れて設計し、シンプルだけれど豊かさやゆとりのあるものを目指しているわけです。

Q:森さんはトーマス同様、日本のモダニズム建築が晒されている消滅の危機に対して警鐘を鳴らしていらっしゃいますが、それはどういった理由からでしょうか?

日本のモダニズム建築は世界でも珍しいものです。他の場所でのモダニズムは、古いものが制度崩壊して、国際的なスタイルを明示する形態として残っています。しかしモダニズム、特にバウハウスは日本建築から影響を大きく受けていますし、日本でのモダニズムには歴史的な継続性があります。そのうえ日本の建築家たちも、伝統的な建築とどう繋がりをもって新しいアイデンティティを作るべきか試行錯誤して、努力を重ねて活動をしていたぶん独特な意匠があり、世界的にも極めて稀な例と言えます。日本人の伝統を大切にする心と革新を目指す情熱が共存している、この国の近代化のシンボルでもあるのです。それを簡単に壊してしまうということは、自分たちで培った現代文化の土台をつぶす野蛮な行動だと感じます。古い建築だけが文化の源ではなく、近代の文化も大切に保護してレガシーとして残すことが文明社会の義務ではないでしょうか。

Q:建築的にサステナブルなデザインをするうえで必要なことは?

まず、敷地に自然条件と調和する位置に建物を設定することが第一です。自然光を入動して風通しを良くして北風から守るだけで随分違います。これは“パッシブデザイン”と言いますが、そのうえで環境に優しいエネルギー源を使ったり、効果的な環境システムを導入したりします。建物の使い方とエネルギーや電気の使い方でバランスを取ることは、もはや暮らしの常識なのです。

Q:建築シーンでは、ボトムアップの動きが活発というお話ですが。

「住」を取り巻く環境で起こっているボトムアップの動きは、住民参加のデザインプロセスが世界中で広がっている点で顕著です。特に貧しい地域では、建築家が美しい建物を建てても誰も使わないとか使えないという問題が起こってしまい、そういう結果を防ぐためにも現地の住民と一緒に街づくりをしています。そのほかオープンソースといってデザインの意匠をシェアする運動や、クラウド・ソーシングといって、大勢でデザインやものを作っていくという活動方法も見られています。

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  • 森俊子/Toshiko Mori
     
    「Toshiko Mori Architect PLLC」建築事務所創立者CEO、ハーバード大学院教授。神戸出身。クーパー・ユニオン大学にて絵画、彫刻を専攻後、建築学科へ転科。同大学卒業後、エドワード・ララビー・バーンズ事務所に入所。1981年に独立し、NYで「Toshiko Mori Architect PLLC」を設立。1995年よりハーバード大学の教授を務め、2002年から2008年まで同大学建築学部長を務める。最近では、住宅のほかブルックリンパブリックライブラリー、ハドソンパークブルーバード、メイン州現代美術館など多岐にわたる作品を手掛け、AIANYデザイン・アワードの栄誉賞、ジョン・ヘイダックアワード、アメリカ芸術院アカデミー賞など、受賞歴多数。2012年のヴェネチア・ビエンナーレでは、アメリカのモダニムズ建築家5名の建築遺産と、関わった仕事のデティール模型を展示する「Dialogue in Details」を出展して、話題をさらった。

  • 『エル・ジャポン』最新号では「来日デザイナーが見つけた日本」と題して、「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイティブ・ディレクター、トーマス・マイヤー氏をはじめ、来日デザイナーの貴重なプライベートに同行して、彼らが見たこと、感じたことをリポート。
    詳細は『エル・ジャポン』をチェック

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