仏女性監督が解説! フランス映画に見るエロティシズム
フランスの田舎町を舞台に、年下男との不倫に走る人妻と、彼女の恋を“覗き見”するパン屋の店主を描いた最新作『ボヴァリー夫人とパン屋』が7月11日(土)に公開されるアンヌ・フォンテーヌ監督。これまでも『美しい絵の崩壊』など、独特のエロスの世界を描き続けてきた監督に、フランス流の官能についてインタビュー!
“ほのめかす”のはフランスの伝統
―あなたが官能的だと思う女性の身体の部分はありますか?
私はもともとダンサーだったので、まず脚を見るわね。あとは視線。瞳そのものが美しいかどうかというよりも、その人がどういうふうにものを見ているか、どう視線を投げかけているか。それから背中。
―映画のシーンでもジェマの背中は印象的でしたね。
そう。あのシーンでは、彼女の背中が見えるように私がドレスをデザインして依頼したのよ。マルタンが彼女を後ろから見ていて、背中のくぼみがあらわになっているというのが醍醐味なの。
―あなたは過去の作品でも倒錯した愛を描き続けていますが、その理由は?
私にとって興味深いラブストーリーというのは、心が乱れるような曖昧な部分があるもの。私の映画でよく描いているのは、何の問題もないようなごく普通の生活を送る人たちが、少しづつ自分のなかの不透明でミステリアスな部分に足を踏み入れていくこと。決まりきったレールから外れて、思いもよらない方向にいってしまうことが面白いと思っているの。
―『美しい絵の崩壊』も衝撃的なテーマでした。ファンタジーとリアルがミックスされたような世界観でしたね。
そう。あの作品の場合はそれが特に顕著に出ているんだけど。4人の人物が関係していて、それぞれ親友の息子に恋するというタブーがテーマだったから。それが官能的でもあるわね。
―フランス映画で描かれる官能は、ダイレクトでわかりやすいセックス描写というよりも、より間接的で精神的なものが多い気がします。
それはフランスの伝統ね。フランス小説の影響を受けたロマネスク。直接的に描写するよりも、ほのめかすというのはフランス文学からくる伝統であり手法よ。だけどたとえば大島渚の『愛のコリーダ』はダイレクトに全部見せているけれど、ミステリアスな愛よね。間接的に描いているからエロティックというわけではなく、映画作家によって、どう切り取るかという、見せ方の違いね。
photo : Miki Takahira(P2)