特集
2015/12/18(金)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第21回】『ヴィオレット ある作家の肖像』に見る、“書く”ことで癒される“病み”

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第21回は、実在の女性作家の半生と愛を描いたフランス映画『ヴィオレット ある作家の肖像』を斬る!

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(C) TS PRODUCTIONS - 2013

自分の苦しみを文章に書くことで、視点が変わる

やがてモーリスと訣別したヴィオレットは、フェミニズムの旗手である女性作家ボーヴォワール(サンドリーヌ・キベルラン)に出会い、ストーカーめいた振る舞いの末に小説を読んでもらって、作家としての才能を認められることになります。
 
この映画でのボーヴォワールは、とてもしっかりした女性として描かれます。作家としての一歩を踏み出したヴィオレットは、モーリスの代わりのようにボーヴォワールに依存し、親しくなればなるほど彼女が嫌がるようなことをしてしまう。これも無意識にですが、そうすることで相手を試してしまうのでしょう。
 
同性愛者ではない同性への依存は、セックスが絡まないぶん、それが「恋」だと気づけないから厄介です。依存体質の人は、愛することをせず、ただ恋だけをします。自分の恋に苦しむ人は、本当は愛を求めているのに、愛が理解できない。そして「申し訳ない」「私なんかに、もったいない」などと言って、愛を受け取らないのです。
 
パワフルなボーヴォワールのような女性が、そんなヴィオレットのような女性に恋されてしまうケースは多いでしょう。依存体質の相手をへたに慰めると、さらに依存が強くなるのも“ダメ男との恋愛”と同じです。
 
ボーヴォワールは「人は人を変えることはできない」と知っていたのでしょう。彼女はヴィオレットに「あなたは書き続けなさい。書くことで視点が変わるから」と言いました。文章には、書いたその人が必ず表れます。長い文章を書き、それを自分で読み返す。自身の“病んでいる部分”を徹底的に客観的に書くことで、視点が変わっていく。それは文章を書くという行為の作用であり、力です。
 
自意識が強いがゆえに有名になりたがる人、ヴィオレットがそうだったように「表現をすることで、なんとか生きのびること」を志向する若者が、世の中に認められて人生が好転することがあるのは、自己顕示欲が満足したからではありません。ただ表現をするだけではなく、他人の評価にさらされることで自分の作品を客観的にも見つめることができ、当人が抱える問題への“自身の視点”が変わるからです。それは作家だけでなく、女優でもアイドルでもそうなのでしょう。人から注目された、無視されたと一喜一憂しているだけだと、お金持ちになれても有名人になれても、痛い人のままです。

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