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恋することに依存する人は 愛されることを回避する人にもなる

心理学で「依存と回避」っていう言葉があって、これは表と裏ですよね。好きだと言ってくれる相手のことは好きになることができず、逆に、絶対に愛してはくれない相手に恋をしてしまう。アルコールやギャンブルにハマるよりも、さらにタチが悪いのかもしれない。恋愛は相手が人間ですから、依存する人間は回避する人間にもなる。捨てたり、捨てられたり、どっちにもなるんです。映画ではヒロインの行動を通して、恋とセックスに溺れる人間の「依存と回避」がていねいに描かれています。彼女のようなタイプには、やはり心に空虚を抱えている男が寄ってきます。
 
ある意味いじわるな作品で、この監督はただ“描いている”だけ。こうすれば幸せになれるよ、といった薄っぺらい教訓やハッピーエンドを提示しないし、「なぜ」を一切説明しようとしない。ある中国人のインテリ女性が実体験を綴ったWEB小説をベースにした脚本とのことだけど、原作者の分身であるヒロインを悲劇的に描いてるわけではない。「いい」とも「悪い」とも最後まで言わないまま終わる。観客は不安になるかもしれません。
 
監督の視線は登場人物だけでなく、風景すら“物語”抜きで描きます。パリの街並みが全然、美しくないしロマンティックじゃない。ただ「そこに生きている人の眼に見えているもの」だけを手持ちカメラで映していく。なんだかあんまり褒めていないように聞こえるかもしれませんが、僕はこの映画、とても好きです。だって「そういうふうにしか生きていけない人たち」をエキセントリックに描いても、誰も救われないじゃないですか。現実って、こういうものですよ。観た人が、どう感じるか。自分の行動や感情を振り返って、恋やセックスの相手のことをどう考えるか。それは完全に「観客の側」に、任されている。監督はヒロインのことを肯定も否定もしません。僕はこれ、多くの若い女性に観てもらいたい映画だと思います。
 
■今回の格言/「我々がしている現実の恋愛やセックスも、こういう姿かもしれません」

  • 『パリ、ただよう花』
    監督・脚本/ロウ・イエ
    出演/コリーヌ・ヤン、タハール・ラヒム
    配給/アップリンク
    公式サイト/http://www.uplink.co.jp/hana/
    2013年12月21日(土)~、渋谷アップリンク、新宿K's シネマほか全国順次公開

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  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

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