モデルの副業が変わった~社会の裏方に回るトップモデルたち~
モデルたちのゴールが女優やテレビホストだった時代は終わり、さらに言えばファッションやコスメブランドを立ち上げることももはやアウト・オブ・トレンド。今もっともクールなモデルの“副業”は、まったく違う方向にシフトしている。そんな“新しいモデルのあがり”から見えてくるものは?
ガーナ系イギリス人で、今シーズンの「ディオール」のキャンペーンで抜群の存在感を見せている25歳のアジョワ・アボアーもそんなビジネスパーソンのひとり。ステイシー・マッケンジーにも似た圧倒的な個性をもつ彼女は「Gurls Talk」のファウンダーとして活躍中だ。
主宰する「Gurls Talk」は社会的正義やジェンダーの平等を話し合うプロジェクト。地域コミュニティのような役目も果たしているという。モデルエージェンシーを経営する母と、モデルスカウトを担当する父があればこそ見極められた、女性の外見に対する抑圧や、分断されてしまいがちな女性同士の連帯を強化する活動を、妹とともに推し進めている。
そしてこの分野でもっとも成功している先輩モデルはリリー・コールだ。『Dr.パルナサスの鏡』や『フロントミッション』で演じるほうの才能も発揮していたものの、もともとケンブリッジのキングスカレッジで学んだ才女。さっさと映画界を後にし、今はサンフランシスコ、NY、ブリスベンなどに支所を置く起業家として世界的に有名だ。事業は環境保全など社会貢献事業を立ち上げようとしている人と、そこに投資したい人をマッチングさせるサイト「Impossible」の運営。各都市70名以上のスタッフを抱えている。
そのほか、『スポーツ・イラストレイテッド』モデルだったサラ・ザインは、NPO「モデル・アライアンス」を立ち上げモデルの職業上の権利や労働環境改善に助力している。
彼女たちの副業に共通するものは何か? アジョワが「H&M」に語った「人生の目標」がそれを端的に表現している。
「私の人生の目標は『Gurls Talk』と、世界中の女の子たちに(私の)人生を捧げることよ」。
これまで持ち上げられてきた“モデルの副業”と決定的に異なるのは、新しい社会を構築するのにもっとも必要とされる仕事、つまり自己利益よりも他者利益を追求している点。そしてそれを採算のとれるビジネスとして成立させるアントレプレナー(起業家)の能力を発揮していること。同じことをしていても、チャリティという後腐れない方法で参加していた人たちとは一線を画す。
社会貢献をビジネス化させ、新しい世代を教育する。世界中をくたくたになりながら飛び回っている間に築いた人脈を、自分を華やかに見せるお仕事ではなく、そんな非常にストイックで先進的な事業のために利用している。現代のモデルたちは裏方に回ることに抵抗がない。そして質実剛健に見えることが実はもっとも豊かであることも知っている。未来を構築していくのは、ビジネスの分野でもトレンドの最前線に立っている賢いトップモデルたちなのかもしれない。