【XYZ世代別ヒロインで解く!】映画に見るジャパニーズエロスの世界
2016/09/01(木)
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「日活ロマンポルノリブートプロジェクト」 行定勲監督『ジムノペディに乱れる』より (C)2016日活
『世界の中心で、愛をさけぶ』の行定勲監督の初ポルノ作品。女性を求めてさまよう映画監督の主人公をを板尾創路が好演。
 

そして女性が日本の“エロ”を支えていく

日本映画で官能描写が描かれるようになったのは戦後まもなくのことだった。終戦の一年後の1946年に公開された『はたちの青春』では、早くも日本映画史上初のキスシーンが登場した。とはいうものの、当初は性表現に対する規制は厳しく、布団に枕が二つ並んでいるというシーンさえ「性行為を連想させるから」とカットされることさえあったそうだ。しかし次第に進む世の中の性の自由化の波は映画の規制を緩めていき、1955年には18歳未満の観覧を禁じる「成人向け」指定が行われるようになり、成人向け映画が誕生した。もちろん、まだまだ規制は厳しかったものの、映画は少しずつ“性愛”を描くことに大胆になっていく。

60年代に入ると、官能描写をふんだんに取り入れた「ピンク映画」が人気を集めるようになった。その多くは安易な作品だったが、なかには映画としての評価も高い作品も珍しくなかった。特に1971年から大手映画会社である日活が手がけた「日活ロマンポルノ」は、そのクオリティの高さから、今なお語り継がれている名作が多い。若手監督の登竜門でもあり、村川透、根岸吉太郎、金子修介、石井隆など、その後に一般映画でも活躍する監督たちを生み出したという功績もある。

「日活ロマンポルノリブートプロジェクト」 中田秀夫監督『ホワイトリリー』より (C)2016日活
『リング』や『クロユリ団地』などのホラー映画界の巨匠、中田秀夫監督が女性同士の究極の純愛を描く。 

80年代に入るとAVという新しいアダルトメディアの登場により、ロマンポルノは衰退を余儀なくされ、1988年に制作を停止することとなるが、その後もピンク映画は作られ続け、今なお(細々とではあるが)健在だ。

90年代以降、一般映画でも官能描写を大胆に取り入れた作品は増えていく。映画でヌードを見せ、濡れ場を披露することで、女優として成長するというケースも珍しくない。世界的に見て、女性がこうした性表現の濃厚な映画に興味を持つようになったのは、1974年公開のフランス映画『エマニエル夫人』が最初だった。外交官の妻であるエマニエル夫人が、性の解放を求めていく姿は当時の女性たちの心を惹きつけたのだ。性描写の激しい映画は男性向けという概念はここから変わっていく。

日本映画でも、1997年公開の「失楽園」あたりからエロティックな作品に女性客が押し寄せる傾向が見られ始める。「萌え」に走ったり、年上の女性との受け身セックスを希望する男性たちにより、女性の方が性に対して積極的になっているのかもしれない。1989年に『アンアン』が初めて大々的なセックス特集を試みたことを皮切りに、女性が性を語ることが肯定的に見られるようになった。90年代始めに大々的なブームとなったレディースコミックは商業的に成功した初めての女性向けポルノであったし、2009年には女性向けAVの専門メーカー、「シルクラボ」も誕生している。

アツコバルーarts drinks talkで開催された「神は局部に宿る 都築響一 presents エロトピア・ジャパン」より

先日、渋谷のアツコバルーarts drinks talkで開催された都築響一氏による秘宝館展示「神は局部に宿る エロトピア・ジャパン」。同展覧会では、エンターテインメント性が高い日本のエロクリエイティブプロダクツや生涯を通じてエロに人生を捧げてきた“性の追求者”を紹介し、アダルトグッズも販売した。ここでは、来場者の半数以上が若い女性だった。女性が性に対して興味を持ち語らうことは、もはや恥ずかしいことではなく、ファッション化した時代が到来したのだ。

来年45周年を迎えることを記念した「日活ロマンポルノリブートプロジェクト」が始動している。これは、これまでロマンポルノを監督していない第一線の監督5人が新たな「ロマンポルノ」を撮影するという試みである。今回紹介した『月光の囁き』の塩田明彦監督、『恋の罪』の園子温監督も参加しており、以前より気軽に女性がおしゃれに“エロ”を楽しめる取り組みになっている。

日本の“エロ”は、男性ではなく女性が支える。そんな時代が既にやって来ているのだ。そこで描かれるヒロインたちは、あなたたち自身なのかもしれない。

  • 「日活ロマンポルノリブートプロジェクト」

    1971~88年に製作され、一定のルールのなかで撮影するという特質を有した同レーベル。10分に1回絡みのシーンを作る、70~80分前後の上映時間、全作品が同じ製作費、撮影期間が1週間程度という条件のもと、17年間に約1100作品が継続して公開。条件を守れば比較的自由に作ることができたため、創意工夫に富む若手監督たちが新たな表現に挑み続けた結果、最もセンセーショナルな作品レーベルとして国内外で高く評価されている。

    再起動となる本プロジェクトでは、従来のルールのほか、これまでにロマンポルノを監督したことがない者、オリジナル作品であることが追加。塩田明彦、白石和彌、園子温、中田秀夫、行定勲という日本映画界を牽引する監督が結集し、新たな“ロマンとエロス”を世に送り出す。

    今冬に東京・新宿武蔵野館で順次公開。

    http://www.nikkatsu.com/

text:Rio Yasuda

  • 安田理央/ライター、アダルトメディア研究家。1967年埼玉県生まれ。美学校考現学研究室(講師=赤瀬川原平)卒。主にアダルトテーマ全般を中心に執筆。特にエロとデジタルメディアの関わりに注目している。AV監としても活動し、2011年には、AV30周年を記念し、40社以上のメーカーが参加するプロジェクト「AV30」の監修者を務める。著書に『裏デジタルカメラの本』(秀和システム)、「OPEN&PEACE 風俗嬢」(メディアックス)、『エロの敵』(雨宮まみと共著 翔泳社)、「安田理央のB級グルメ道」 (オフィスマイカ)など。新刊『痴女の誕生』(太田出版)が好評発売中。
    http://www.lares.dti.ne.jp/~rio/

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