【XYZ世代別ヒロインで解く!】映画に見るジャパニーズエロスの世界
2016/09/01(木)
> <

2/4

『愛の新世界』(1994年/東映アストロ) (C)G・カンパニー/東亜興行株式会社

性を正面から見据える【Y世代のヒロインたち】

90年代に入ると女性の性に対する意識も大きく変わる。ボディコン女性がディスコで扇子を振り回して踊り、女子高生はブルセラショップで下着を売る。女性は自分が性の対象として商品的価値があるということに自覚的になった。SMブームやフェチブームなどもあり、性への興味も幅広いものとなっていった。

また、90年代から00年代にかけては、AVや風俗において痴女ブームも起きている。積極的に男性を責めることで興奮する女性のことだ。男女の性のあり方は、このY世代に大きな変化を見せている。そうなれば当然、映画で描かれる女性像も変わってくる。X世代の映画で描かれた“陰のあるワケありの女性”は時代とずれてしまったのだ。既にロマンポルノも活動を停止していた。

1994年に公開され日本初のヘアヌード映画としても話題となった『愛の新世界』のヒロイン、レイは劇団女優でありながらSMクラブの女王様としても働いている。しかしSMに対して過剰な思い入れがあるわけではない。風俗もSMも、あっけらかんと受け入れてしまう若い女性たちのタフさを描いた作品である。90年代には、もはやアブノーマルな性癖が、さほど特別視されるものではなくなっていたのだ。

『月光の囁き』(1999年/日活) ©日活

1999年の『月光の囁き』はそんな時代ならではの純愛映画だ。高校生カップルによるSM的な関係。それはかつてロマンポルノのSM物で描かれた過激なプレイとは違った極めて精神的な愛情の確認だ。グロテスクでありながらも純粋。戸惑いながらも異形の愛を受け入れて変貌していくヒロイン、紗月には聖女のような優しさを感じる。

『蛇にピアス』発売中/¥3,800/ギャガ (C) 2008「蛇にピアス」フィルムパートナーズ

第130回芥川賞受賞作を2008年に映画化した作品『蛇にピアス』は、ピアッシングや刺青、そして舌を二つに裂くスプリットタンなど身体改造の刺激的な描写が話題を呼んだ。自らの肉体を傷つけて変身していく吉高由里子演じるルイは、それまでの日本映画では決して主役になることがなかった異色のヒロインだ。「生きていることを実感できるのが痛みを感じる時だけ」と言う彼女は、単なるセックスの枠を超える快楽にまで手を伸ばそうとする。

『ジョゼと虎と魚たち』発売中/アスミック・エース (C)2003「ジョゼと虎と魚たち」フィルムパートナーズ

2003年公開の『ジョゼと虎と魚たち』のヒロイン、ジョゼは足が不自由だという障がいを持った少女だ。何を考えているのかわからないミステリアスな面もあるのだが、マイペースで自分の世界をしっかりと築いている。そこには80年代までの映画のヒロインたちが持っていた情念にあふれた哀しみは感じられない。むしろ乾いた諦観のようにも見える。閉じたジョゼの世界に突然やってきたのは、いかにも今どきの大学生といった恒夫。

この妻夫木聡演じる恒夫とジョゼのキスシーンが生々しくて官能的なのだ。貪るような激しいキスではなく、恋人を愛おしむような優しく、それでいて濃厚なキス。本作中では、セックスフレンドであるノリコ(江口徳子)、大学の同期生である香苗(上野樹里)、そしてジョゼ(池脇千鶴)との三人とのキスシーンを見せるのだが、いずれも時間をかけてじっくりと行い、その後のセックスシーンよりも印象的だった。

ここで男性が性欲を女性にぶつける、あるいは性の快楽で女子を屈服させようとするX世代のセックス描写とは明らかに変化がみられる。いわば恒夫は“前戯を大事にする世代”とでも言おうか。男性と女性が共に楽しむものがセックスであるという時代になったのだ。

ジョゼのおかれている環境は決して恵まれたものではないが、彼女は“堕ちていく女”ではない。ジョゼは、自らセックスに誘い、流されることなく、その場所にいつづける。そして紗月もルイも、自らの意志で、セックスの向こう側の世界を覗こうとする。彼女たちは目をそらさずに、性を見据えるのだ。

  • Recommend movies from Generation-Y

    『ヌードの夜』(1993年/ヘラルド・エース)
    監督/石井隆 
    主演/竹中直人、余貴美子
    https://www.amazon.co.jp/

    石井隆監督作品ということで、本作もやはり名美と村木の物語。大人の女性の色気をまきちらしながらも、儚げな余貴美子の名美が切なく美しい。

  • 『愛の新世界』(1994年/東映アストロ)
    監督/高橋伴明 
    主演/鈴木砂羽
    https://www.amazon.co.jp/
    文・島本慶、撮影・荒木経惟による同名の写真集が原作。SMクラブの女王様を演じる鈴木砂羽の裸身が素晴らしい。日本映画初のヘアヌードも話題にもなった。脚本家の宮藤官九郎や、個性派俳優として魅力を放つ阿部サダヲが劇団員の役で共演。ともに鈴木砂羽とのセックスシーンに挑戦している。

  • 『月光の囁き』(1999年/日活)
    監督/塩田明彦 
    主演/水橋研二、つぐみ
    https://www.amazon.co.jp/ 

    喜国雅彦の同名漫画を映画化。普通の高校生カップルが、特殊な関係へと踏み出していく。サディスティックな表情のつぐみに惚れ惚れする。

  • 『ジョゼと虎と魚たち』(2003年/アスミック・エース)
    監督/犬童一心 
    主演/妻夫木聡、池脇千鶴
    販売/(DVD)KADOKAWA/(Blu-ray)TCエンタテインメント
    http://jozeetora.com
    http://www.digital-voice.net/detail.shtml?id=1055
    http://www.digital-voice.net/detail.shtml?id=980

    足が悪いためにほとんど外出をしたことがないジョゼと、大学を出たばかりの共棲みの管理人・恒夫との純愛を描く、どこかエロティックなラブストーリー。なお、ジョゼの名前の由来は彼女の愛読書フランソワーズ・サガンの登場人物の名前から。

  • 『蛇にピアス』(2008年/ギャガ)
    監督/蜷川幸雄 
    主演/吉高由里子、高良健吾、ARATA
    https://www.amazon.co.jp 

    金原ひとみの芥川賞受賞小説を蜷川幸雄が映画化。これが初主演となる吉高由里子の大胆なヌードとピアッシングや刺青などの過激な描写が話題となった。

text:Rio Yasuda

  • 安田理央/ライター、アダルトメディア研究家。1967年埼玉県生まれ。美学校考現学研究室(講師=赤瀬川原平)卒。主にアダルトテーマ全般を中心に執筆。特にエロとデジタルメディアの関わりに注目している。AV監としても活動し、2011年には、AV30周年を記念し、40社以上のメーカーが参加するプロジェクト「AV30」の監修者を務める。著書に『裏デジタルカメラの本』(秀和システム)、「OPEN&PEACE 風俗嬢」(メディアックス)、『エロの敵』(雨宮まみと共著 翔泳社)、「安田理央のB級グルメ道」 (オフィスマイカ)など。新刊『痴女の誕生』(太田出版)が好評発売中。
    http://www.lares.dti.ne.jp/~rio/

MORE TOPICS

SHARE THIS ARTICLES

前の記事へ特集一覧へ次の記事へ

CONNECT WITH ELLE

エル・メール(無料)

メールアドレスを入力してください

ご登録ありがとうございました。

ELLE CLUB

ようこそゲストさん

ELLE CLUB

ようこそゲストさん
ログアウト