【XYZ世代別ヒロインで解く!】映画に見るジャパニーズエロスの世界
2016/09/01(木)
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『天使のはらわた 赤い教室』(1979年/日活) (C)日活

堕ちていく女性の美しさ【X世代のヒロインたち】

1971年から日活が手がけた「日活ロマンポルノ」は数多くの名作を送り出した。その中でも一、ニを争う名作と言われるのが1979年公開の『天使のはらわた 赤い教室』である。現在は映画監督として活躍中の石井隆の連作劇画『天使のはらわた』の映画化第二作であり、脚本も石井本人が手がけている。石井隆は、名美というヒロインと村木という男の物語(設定は毎回違う)を延々と描き続けてきた劇画家だった。本作の主役も、もちろん名美と村木だ。

エロ本編集者である村木は、たまたま見たブルーフィルム(非合法の無修正ポルノ映画)の主役の女性に一目惚れしてしまう。ある時、偶然にその女性・名美と出会うが、あのブルーフィルムは彼女が本当にレイプされたところを撮影されたものだったという事実を知る。それによって彼女の人生は大きく変わってしまったのだ。

他の石井隆の物語でも描かれるように、名美は常に“堕ちていく女性”だ。本作でも名美は、酔客相手に情夫と本番ショーを見せる女性にまでに堕ちていく。流されて、汚れていく弱い女性である。しかし、だからこそ名美は美しい。その表情からは凄惨なまでの色気が漂う。一般的に男性が好むという、清楚で明るくて健康的な可愛らしい女性というタイプとは全く逆の存在だ。それなのに、男は彼女に強く惹かれる。一緒について行ったら自分も破滅してしまうかもしれない。そんな危険な女性でもある。それでも村木は名美を追うのだ。

『赫い髪の女』(1979年/日活) (C)日活

同じく日活ロマンポルノで同年に公開された「赫い髪の女」で宮下順子が演じたヒロインは、得体のしれないエロティックな魅力を持った女だ。自分を拾った男の汚い部屋で、ひたすらセックスに溺れる生活。そこから抜けだそうともせず、ただただ淫猥な快楽に溺れていく。宮下順子の表情と肉体は、堕落の極みの中でぬめぬめと妖しい輝きを見せる。

1983年公開の『白蛇抄』で小柳ルミ子が演じる“うた”も、また暗い過去を持つ女性だった。うたは、周囲の男たちを引き寄せ、狂わせてしまう魔性の女性だ。うたに魅せられた男はみんな破滅していく。何よりも悲劇的なのは、それはうた本人は全く望んでいないということなのだ。

男性は強く、女性は弱い存在であるというステレオタイプな性概念が色濃く反映されているのが70年代~80年代=X世代のヒロイン像である。セックスに対しても受け身であることが当たり前であり、『天使のはらわた 赤い教室』の後半の名美のように、女性が積極的に男性を求めるのは特殊な理由があるという描かれ方をされている。

X世代の日本映画では、彼女たちのような美しくも哀しい性を持ったヒロインが描かれ続けていた。その哀しみが彼女たちの白い裸身をより美しく輝かせていたのだ。80年代後半には、男女雇用機会均等法が施行され、社会的にも男女平等が叫ばれ始めるのだが、それが意識として根付くには、まだ時間がかかった。

  • (C)日活

    Recommend movies from Generation-X

    『天使のはらわた 赤い教室』(1979年/日活)
    監督/曾根中生 
    主演/水原ゆう紀、蟹江敬三
    https://www.amazon.co.jp

    “官能のアナーキスト”曽根中生が監督、『GONIN』シリーズの石井隆が共同脚本を手掛けたエロスドラマ。暴行現場を8ミリで撮られ、ブルーフィルムが市場へ出回ったことから、どん底へと堕ちていく女の姿を描く。“日活名作ロマンシリーズ”。

  • (C)日活

    『赫い髪の女』(1979年/日活)
    監督:神代辰巳 
    主演:宮下順子、石橋蓮司
    https://www.amazon.co.jp

    ダンプ運転手の光造は、拾った女と同棲生活を始める。ひたすらセックスを求める淫らさと弱さを魅せる宮下順子が、美しくも恐ろしい。

  • 『遠雷』(1981年/ATG)
    監督/根岸吉太郎 
    主演/永島敏行、石田えり
    https://www.amazon.co.jp 

    近郊で農業を営む青年の日常を描いた青春映画。21歳の石田えりの肉感的なヌードと濡れ場が鮮烈な印象を残す。生々しく、たまらなく可愛らしいのだ。

  • 『白蛇抄』(1983年/東映)
    監督/伊藤俊也 
    主演/小柳ルミ子
    https://www.amazon.co.jp/

    寺の住職の後妻としてやってきた女・うたを求めて狂っていく男たち。本作で初ヌード・初濡れ場を披露した30歳の小柳ルミ子の悩ましい白肌!

text:Rio Yasuda

  • 安田理央/ライター、アダルトメディア研究家。1967年埼玉県生まれ。美学校考現学研究室(講師=赤瀬川原平)卒。主にアダルトテーマ全般を中心に執筆。特にエロとデジタルメディアの関わりに注目している。AV監としても活動し、2011年には、AV30周年を記念し、40社以上のメーカーが参加するプロジェクト「AV30」の監修者を務める。著書に『裏デジタルカメラの本』(秀和システム)、「OPEN&PEACE 風俗嬢」(メディアックス)、『エロの敵』(雨宮まみと共著 翔泳社)、「安田理央のB級グルメ道」 (オフィスマイカ)など。新刊『痴女の誕生』(太田出版)が好評発売中。
    http://www.lares.dti.ne.jp/~rio/

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