女子会はやめなくていい! ドラマ版「東京タラレバ娘」は、アラサー女子の不幸を癒せるのか
“くすぶり男子”“ノマドセックス女子”などの名キャッチを生み出し、タレント批評から差別問題まで硬軟織り交ぜたコラムで編集業界に旋風を巻き起こしている編集者・ライターの福田フクスケさん。脚本家や演出家まで必ずチェックするドラママニアでもある福田さんが、旬のTVドラマに見る男女関係を考察する連載。第二回は原作に反旗を翻し、異なるメッセージを送り続け、2017年最初のクールで話題度No.1のNTV「東京タラレバ娘」を読み解く。
アフター「逃げ恥」の世界で“呪い”を再生産する分の悪さ
そう、この『タラレバ』の原作漫画に関しては、ときに「えぐられた!」「刺さる!」「死ぬ!」といった物騒なボキャブラリーで感想を語られることが多い。
モデルのKEYは、倫子たちの女子会を「行き遅れ女の井戸端会議」と切り捨て、「もう女の子じゃないんだよ? おたくら」と言い放つし、倫子が酔ったときに見るタラの白子とレバテキの幻覚(よく考えたら、これってどう考えてもアル中の症状だよな、病院行ってください倫子さん)も、「お前は一生独身だァァァ」「女は若さと美しさタラ」と容赦がない。
こうした、『フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹もかくやと言うほどのハードな言葉責めの数々は、コミックス刊行当時、ただでさえ年齢や容姿で不当に差別され、社会で抑圧されている女性に対して、「若さと美しさを失った女は価値が下がるんだから、妥協しろ」という脅迫的なメッセージを突きつける説教ビジネスではないか、という批判もあった。
しかも分が悪いことに、昨年は「逃げるは恥だが役に立つ」が大ヒットしたばかりだ。劇中で、高齢処女の独身キャリア女性・百合ちゃんが「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからは、さっさと逃げてしまいなさい」と語っていたように、あのドラマの最大のテーマは、世間からの価値観の押し付けという“呪い”からの解放である。
ところが、「タラレバ」は、「時間は巻き戻せない」「女として終わってる」といった物言いによって、「逃げ恥」がせっかく解いた“呪い”をわざわざ再生産し、時代感覚に逆行するような印象を与えてしまった。この放送順のタイミングは、「タラレバ」にとって不運だったかもしれない。
ただし、「タラレバ」ばかりを責められないのは、不安を言語化して煽ってもらえると安心する、キツイことを言われて説教されたい、ひっぱたいて私の目を覚ましてほしい、といったショック療法を望んでしまう女性が、世の中に一定数いることも確かだからだ。“飲む美容液”ならぬ“読む細木数子”のような需要が、この作品には確実に存在する。
「えぐられた!」「刺さる!」と阿鼻叫喚する読者たちの言葉には、どこかマラソンやホットヨガで「苦しい!」「暑い!」と言いながらデトックスを感じてすっきりしているのと同じニュアンスを感じるのだ。
それに、原作では巻が進むにつれて、年齢や容姿に関する脅迫的なメッセージはやや鳴りをひそめ、若い頃に染まった価値観を引きずったまま、主体性や計画性もなく自分の幸せを人まかせにしてしまうアラサー女性の成熟できなさへと、批判の矛先が徐々にシフトしていったようにも見える。
つまり、自分のモノサシがないせいで、人から説教してもらわないと生き方を決められない、まさにこの漫画が心に響いてしまうような女性の姿勢そのものが問い直されているような構造だ。現時点で原作者の主張がどこへ落ち着くのかは、まだ展開が流動的で判断できないところもある。
Text : Fukusuke Fukuda
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フリーライター・編集者。「男の自意識」を分析したジェンダー論を華麗に差し込みつつ、幅広いカルチャーを斜めから分析したコラムでオンライン上でまたたくまに人気を得る。雑誌『週刊SPA!』『GetNavi』、webメディア「SOLO」「マイナビニュース」などで執筆中。
Twitter @f_fukusuke -
「東京タラレバ娘」(NTV)
東村アキコ原作の人気マンガを実写ドラマ化。崖っぷちの脚本家30歳・未婚・子なしの主人公・鎌田倫子と友人たちが、“女の幸せ”を求めもがくストーリー。物語が進めば進むほど、原作とはまた違ったメッセージを伝え、最終回までどう展開するのかに注目が集まる。
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