「恋人のおいしいところだけが欲しいんです!」――“踏み込まない男性”に萌える「逃げ恥」世代の恋愛スタンス
“くすぶり男子”“ノマドセックス女子”などの名キャッチを生み出し、タレント批評から差別問題まで硬軟織り交ぜたコラムで編集業界に旋風を巻き起こしている編集者・ライターの福田フクスケさん。脚本家や演出家まで必ずチェックするドラママニアでもある福田さんが、旬のTVドラマに見る男女関係を考察する連載がスタート。初回は2016年最大の成功を収めたTBS「逃げるは恥だが役に立つ」を読み解く。
世界にひとつだけの花は踏み込まれないと咲かない
平匡は、常に条件を提示してお互い納得してからコトを進め、みくりの同意のないことは決してしないし、彼女からの要求があれば受け入れてくれる。みくりにとって、雇用主や“共同生活のパートナー”としては理想的だった。
しかし、ひとたび恋愛感情が発動すると、それが募るにつれて、平匡が“恋愛”において常に受け身で主体的なアクションを起こさず、自分ばかり一方的な要求をしていることに、彼女は疲れてくる。
これまで避けてきたはずの「相手の心に踏み込みたい」そして「踏み込まれたい」という理不尽な欲求が芽生えてしまった。
そこで2人は、「ハグの日」を作って定期的にハグをする。そのルールさえ守っていれば、お互いの本心には踏み込まなくて済む仕組みになっている。だが、みくりが“平匡萌え”の範疇を超え、“それ以上”を求めたことで問題は決定的となる。
「いいですよ、私は。平匡さんとなら、そういうことしても」と、第7話でみくりから性的な関係を持ちかけられると、平匡は“35歳で童貞”という、自分が一番踏み込まれたくない負い目とプレッシャーを刺激され、その誘いを一方的に拒絶してしまう。
傷付かないように自分を守るための鎧が、知らず知らず凶器と化して相手をブン殴る。平匡は「モテキ」の幸世とまったく同じ過ちを犯している。
いわずもがな本作の魅力は、ドライで合理的な“契約結婚”という形式を描くことで、結婚が主婦の無償労働で成り立っていることや、いまだに家同士の結びつきという慣習から逃れられないことなど、私たちが当たり前だと思っている恋愛結婚の矛盾や陥穽を、逆説的に浮き彫りにしていくことにある。
そして、その批評の矛先は、当然“恋愛”自体にも向けられる。
このドラマは、「他者に踏み込まれたくない」という理由で恋愛に消極的な2人をきちんと肯定・尊重しつつ、それでも「他者に踏み込まれたい」と思ってしまう理不尽な欲望こそが“恋愛”なのだということを突きつける。
皮肉なことに、「唯一の存在として選ばれたい/必要とされたい」という彼らの真の願いは、自分も他人も脅かさない安心・安全な“契約結婚(共同生活)”では、決して満たされない。
Text : Fukusuke Fukuda
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フリーライター・編集者。「男の自意識」を分析したジェンダー論を華麗に差し込みつつ、幅広いカルチャーを斜めから分析したコラムでオンライン上でまたたくまに人気を得る。雑誌『週刊SPA!』『GetNavi』、webメディア「SOLO」「マイナビニュース」などで執筆中。
Twitter @f_fukusuke -
「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)
派遣切りに遭った森山みくり(新垣結衣)は、ひょんなことから津崎平匡(星野源)と契約結婚をすることに。この契約は、雇用主として平匡がみくりに月給を払い、みくりが被雇用者として専業主婦になるというもの。2016年最大のヒットドラマとなっている、結婚と仕事の現実を斬る痛快コメディ!
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