音楽と官能。私たちの生活に欠かせないこのふたつを、音楽に精通するエッセイストでありディレクターの湯山玲子さんが大胆に、かつ深く語りつくす新連載「エロスと音楽」がスタート! 初回は、ソウルミュージックが官能に効く理由を分析。デートシーズンに使えるセクシーな気分を盛り上げるソウルミュージックのおすすめナンバーも紹介します!
口説き作戦には、暖炉とカウチとソウルバラード
そう、ソウルバラードは、単にムーディーな音楽というような気軽な存在ではなく、男と女の本能がスパークする現場でしのぎを削ってきた歴史があり、男女の性感ポイントを確実に刺激することを求められる、機能的、いや薬理的ともいえる音楽だったのだ。カフェインを摂ると眠気が吹き飛ぶように、、男女の心と身体にムラムラを確実に引き起こすための信頼できる装置、といいますかね。
話は変わって、アメリカの長寿お笑い番組「サタデー・ナイト・ライブ」に、「夏休みが過ぎて、一気にセクシーダイナマイトになってしまったハーマイオニー」という爆笑スキット(コント)がある。
ハーマイオニー役が、レズビアン騒動も起こしたお騒がせアイドルのリンジー・ローハンであることも、ある意味ツボなのだが、彼女の巨乳にアワワワとなる、学友男子ふたりの反応が面白い。彼らはセクシーになっに彼女に慌てふためくが、すぐに態勢を整えて、ナンパモードに突入。
さてさて、その時に彼らが使った魔法は、「シンディオゥ」と杖を振れば暖炉に火がともり、次に「カウチオゥ」でソファが現れ、そして最後には「ステレオゥ」のひと言で、そこにはバッチリと悶えるようなファルセットボイスのムーディなソウルバラードが流れるのである。(そう、口説きにかかる作戦の3点セットは、アメリカの場合、暖炉とカウチとそして、ソウルバラードなのだ)
これが日本の場合だとして、男女のお家デートの場合、ソファには座るだろうけど、暖炉の代わりに卓上コンロで鍋、というのが定番で、どう考えても、色気方面には状況が向かわなそう。彼女や彼のためにこだわりのゆずこしょうを用意する労力があるならば、そのおカネでピーチズ&ハーブ(peaches and herb) の「恋の仲直り~Reunited」入りの一枚でも買って流しておいたほうが、ずっと効果があると思うのだけれどね。
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湯山玲子(ゆやま・れいこ)/著述家。ディレクター。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。学習院大学卒。サブカルチャーからフェミニズムまで横断したコラムで人気。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え!』(ワニブックス)などがある。