特集
2016/11/15(火)
ELLE CINEMA AWARDS 2016

映画ジャーナリストが選ぶ、2016年のベスト映画【後編】

エルでおなじみの映画ジャーナリスト11名が、部門別に2016年のベスト映画&俳優を選出。映画を知り尽くしたプロたちが選んだベスト3を、前編、後編の2回に分けてお届け。本日は後編5ジャンルを公開!

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『イレブン・ミニッツ』公開中 (C)2015 SKOPIA FILM, ELEMENT PICTURES, HBO, ORANGE POLSKA S.A., TVP S.A., TUMULT

アート系問題作部門BEST3/久保玲子さん

『イレブン・ミニッツ』
女好きの映画監督、新婚の女優と嫉妬に駆られる夫、訳ありのホットドック売りとその息子、犬を連れた女、女性救命師……。都会に暮らす11人の、17時から17時11分までの人生が交差する、その一瞬に向かって突き進むドラマ。轟音響かせ低空を滑る飛行機。度々登場する不吉なナンバー“11”。嫌な予感、嫌な予感! 作者の巨匠の御年が77歳とはにわかに信じられないほどの、キレッキレの映像と緻密な音の響宴にも舌を巻く! 不安は煽りに煽られ、想像に違わぬ衝撃的なエンディングにしばし呆然。なのに、どうせPCの隅っこの傷みたいな人生なら、1分1秒楽しまなくちゃ!と、妙に晴れ晴れとした気分になりました。

『光りの墓』
昏々と眠り続ける《眠り病》の兵士たち。その病院の土地は、古代の王の戦地で、地中には王たちの墓が。さらにスレンダー美人の古代の姫姉妹が現代のヒロインに言うことにゃ、王たちは眠れる兵士たちの生気を吸って、今なお戦い続けているんだと。虫の音響く暗闇から始まる映画は、やがて鮮やかな光と色に溢れ、アニミズムや輪廻、地続きの生と死といったアジア人に馴染みのある世界が広がってゆく。さらにはタイ東北部の方言がなんとも心地よく、いつまでも見続けていたくなる。モダン・アーティストでもある、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクンの最新作は、奇想なアイディアと才気、そしてたゆとう空気があいまって、これまでの彼の集大成的傑作と思います。

『マジカル・ガール』
日本のアニソン鳴らして激しく踊り狂うスペイン美少女にまずはビックリ!! 彼女は日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファンで、白血病で余命幾ばくもなく。父思いの彼女の感動の物語かと思った途端、ヒロインは別にいることがわかる。この美しきヒロインの病みっぷりが半端ない。さらには彼女の闇と、マジカル・ガールに魅入られた男たちの運命が、次々と予想を裏切ってゆく。「魔法少女ユキコ」のテーマ曲として使われているのは長山洋子の歌う「春はSA-RA SA-RA」、締めのエンディング・テーマは美輪明宏の「黒蜥蜴の唄」ときた! 日本オタクを公言するスペインの新鋭監督の長編デビュー作は、フェチ度も楽しいが、予測不能の冷え冷えサスペンスにはヤラれます。

●ベスト俳優
ベン・スティラー(『ヤング・アダルト・ニューヨーク』)
オーガニック生活を謳歌する若者に翻弄される、スマホやタブレットに支配されたミドルエイジ・クライシスを描いた『ヤング・アダルト・ニューヨーク』を盛り上げたスティラー。監督でもある彼はノア・バームバックと組んで、ウディ・アレンの十八番インテリ・ニューヨーカーを引き継ぎながら、お株を奪うパフォーマンスを見せた。

●ベスト女優
シャーロット・ランプリング(『さざなみ』)
夫に届いた一通の手紙によって、45年の平穏な結婚生活が人知れず壊れる『さざなみ』。しかも、目覚めたのは妻だけで、夫は眠り続ける。その目覚め、動揺、怒り、挿入曲「ハッピー・トゥゲザー」の皮肉、男女の違いを、その表情だけで刻み付けるランプリングの凄味! 70歳にして“女”を演じきる、肚の座った伝説の女優に圧倒された。

  • 久保玲子さん/エル・ジャポンをはじめ、女性誌、映画誌などで、映画評、インタビューを執筆。エドワード・ヤン没後10年後となる今年、『牯嶺街少年殺人事件』デジタルリマスター版が東京国際映画祭で上映され、来年にはロードショーされる歓びにむせぶ日々。

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