特集
2016/11/15(火)
ELLE CINEMA AWARDS 2016

映画ジャーナリストが選ぶ、2016年のベスト映画【後編】

エルでおなじみの映画ジャーナリスト11名が、部門別に2016年のベスト映画&俳優を選出。映画を知り尽くしたプロたちが選んだベスト3を、前編、後編の2回に分けてお届け。本日は後編5ジャンルを公開!

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『オーバーフェンス』公開中 (C)2016「オーバーフェンス」製作委員会

日本映画部門BEST3/門間雄介さん

『オーバー・フェンス』
日本映画がここ数年でもっとも充実していた2016年。『リップヴァンウィンクルの花嫁』『海よりもまだ深く』『怒り』といった作品も素晴らしかったけれど、なによりこの1本にしみじみと心打たれた。うらぶれた地方都市で互いに傷つけあわずにいられない男女の哀しさ。年齢も経歴も異なる男たちが職業訓練校に滲ませる気怠さ。そんな恋愛や青春の成れの果てを描きながら、一方で奇妙なすがすがしさを感じさせるのはなぜだろう? 演出、脚本、芝居、撮影……最上級のクオリティーで、人生の陰影とその向こうにおぼろげに見える光を巧みに描きだした山下敦弘監督作。『ぼくのおじさん』とあわせて2016年は山下イヤーといった感も。

『永い言い訳』
妻を事故で失ったその瞬間、愛人と情事にふけっていた男が、みずからの人生に欠けていた何かを見出す物語。観る人の共感をはねつけるような、ろくでもない男が主人公なのに、観る人を強く惹きつけるのは本木雅弘の愚直な存在感ゆえ。自意識の塊のようなキャラクターをみっともなく、そのくせどこか愛らしく演じた彼の芝居は今年のベストパフォーマンスのひとつだろう。西川美和の監督作品はこれまで、自身で手掛ける脚本がまず卓越し、その酷薄な世界で登場人物が右往左往している印象があった。でも本作にはまず人がいた。役者が脚本を上回ったように見えた。もちろんそれは西川美和が演出家として飛躍したことの証しなのだけれど。

『この世界の片隅に』
『君の名は。』が歴史的なヒットを記録した2016年は、日本のアニメーション映画において、ポスト・ジブリ時代の本格的な幕開けを告げる1年でもあった。そんななか、『この世界の片隅に』の衝撃がいかに大きいものだったか。舞台は太平洋戦争末期の広島県呉市。10代で見知らぬ街に嫁ぎ、戦況が悪化するなかでも、日々の暮らしをたくましく生きようとする主人公の姿に心を揺さぶられる。今年のベスト海外映画のひとつ、『ブルックリン』の表現を拝借するなら、「ここに人生がある」ということ。少女の成長物語としても秀逸。当時の生活を丹念に再現したリアリズムと、繊細な映像表現によって生みだされる詩情が、見事なまでに融合した。

●ベスト男優
菅田将暉(『ピンクとグレー』『ディストラクション・ベイビーズ』など)
まず候補として、柳楽優弥(『ディストラクション・ベイビーズ』)、森山未來(『怒り』)、浅野忠信(『淵に立つ』)、本木雅弘(『永い言い訳』)を考えて、精力的な仕事ぶりと作品の充実度で菅田将暉に1票。ある時は華やかな輝きを放ち、ある時はその翳りで周囲を飲み込む、彼の芝居の振幅に1年中驚かされっぱなしだった。『何者』で聴かせた歌声は、いずれフルパフォーマンスで。期待。

●ベスト女優
筒井真理子(『淵に立つ』)
『海よりもまだ深く』の樹木希林も圧巻だった。『オーバー・フェンス』の蒼井優も壮絶だった。でも2016年は『淵に立つ』の筒井真理子が傑出していた。平穏な日常を送っていた女性が、ゆらめき、変貌し、狂気の果てをのぞく、あの剥き出しな芝居はいま思い出しても鳥肌が立つ。そのほかに印象的だったのは、『セーラー服と機関銃 卒業』の橋本環奈、『リップヴァンウィンクルの花嫁』の黒木華、『ヒメアノ~ル』の佐津川愛美など。

  • 門間雄介/編集者、ライター。元『CUT』副編集長。雑誌、WEBで映画を中心に執筆。『伊坂幸太郎×山下敦弘 実験4号』『星野源 雑談集1』『二階堂ふみ アダルト』などの書籍で編集や構成を手掛ける。今年もっとも感銘を受けた一冊は、アンソニー・ドーア『すべての見えない光』です。

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