特集 2017/8/22(火)
女性たちが支えたアメリカン・アートの歴史

女性たちが創ったMoMA vs. 男たちのMET

モダン~コンテンポラリーアートの流れにおいて、重要な様式や潮流を発信してきたアメリカン・アート。そこにはあらゆる方面で深く関わり、アートを育てた女性たちがいた。今も変わらない男性優位の体制の中、アートシーンを力強く開拓していった女性たちに、エル・オンラインでおなじみ、フォトリサーチャーでもある在米ライター、オー・玲子さんがフォーカスを当てる。

1936年のMoMA(左)。右は増改築を繰り返したのち、2011年の外観。

Photo: Getty Images

MoMAを作った女性たち

女性たちが創設したMoMA
 
1900年前後、アメリカの経済力上昇に伴い、多くの資産家や篤志家がアートのコレクションを始めるとともに、その子女も芸術的教育を受けるなど、若いうちにヨーロッパのアートに触れ、芸術界に何らかの形で関わろうとしていた。時代的に第一次女性参政権運動と重なるため、そういった政治的ムーヴメントに影響され、アートコレクターやパトロネーゼ(女性後援者)としての芸術への支援は、女性として社会に参加するひとつの手段でもあったかもしれない。
 
なかでも、1929年に設立されたMoMA(ニューヨーク近代美術館)は、マッキンリー大統領時代に国務長官も務めたコーネリアス・ニュートン・ブリスを父にもつリリー・P・ブリス、ネルソン・オルドリッチ上院議員を父に持ち、スタンダード・オイルの後継者ジョン・ロックフェラー2世に嫁いだアビー・オルドリッチ・ロックフェラー、夫とともにコレクションを始めたメアリー・クイン・サリバン、この3人の女性たちによって構想され、創立された歴史がある。

後のアメリカンアートに多大な影響を与えたアーモリーショー=国際現代美術展の様子。展示された作品は1200点以上。ボストンとシカゴも巡回した。

女たちのMoMA vs. 男たちのMET
 
リリーは150点以上に上るコレクションをアーモリー・ショー(1913年に開催された大規模な国際現代美術展覧会)にも出展。メアリーは蒐集した作品だけでなく、豊かな人脈をもち、画家キャサリン・ドレイヤーやマルセル・デュシャン、マン・レイとともに「ソシエテ・アノニム」を結成。アビーは、元々夫が篤志家家系のロックフェラー家二代目当主。当然、夫も様々な慈善事業に多額の寄付や支援を行っていたが、彼のアートコレクションの中心は中世ヨーロッパ美術(このコレクションが後にMETの分館、クロイスターズとなる)でモダンアート嫌い。それに加え1960年代半ばごろまでの専業主婦はお小遣い制が大部分で(ジャクリーン・ケネディの時代でさえその風習は残っていた)、しかも夫はかなり少額の小遣いしか与えていなかった。そのため、資金源においてほかの2人より劣る彼女は、コレクションの殆どを一般有志者や企業、そしてニューヨークの財界人やニューヨーク社交界の主だったメンバーへの熱心な働きかけによって得ていた。確かに彼女たちの背景にオールドマネーがあり、あるいは結婚し、夫の苗字で「○○夫人」と呼ばれ、有閑マダムのお遊びと見られても仕方がない。しかし彼女たちの当初の地道な活動が、その後世界的な美術館になったいっぽうで、これより前に設立されたMET(メトロポリタン美術館)が男性のみで結成されたグループで、「国民の教育」という大弾幕をかかげて発祥したのも興味深い。

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  • オー・玲子(ライター・リサーチャー)/学習院大学哲学科美学美術史専攻卒。写真通信社、海外誌を中心にフォトリサーチャーとして勤務後、現在アメリカにてライターとして活動。

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