- 【第一回】どれが獲っても論争勃発!? グラミー賞2017をブッタ斬り
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ビヨンセとアデルの一騎討ち
つまり、この最優秀レコード賞は、ビヨンセとアデルの一騎討ち以外の何ものでもありません。ビヨンセは前述の「フォーメーション」です。片や、アデルの「ハロー」はグレッグ・カースティンとの共作。アデルの歌唱力はもちろん、グレッグ・カースティンの作曲とアレンジもそれに勝るくらいすごいのです。
もはや発展する余地がないと誰もが思っていたミドルテンポのバラードという形式を見事に進化させている。ピアノとストリングスがアレンジの中心なんですが、最大の聞きどころはドラム、太鼓のアレンジです。とにかく余計なスネア(ドラム)、余計なハイハット(シンバル)は使わない。さらに重低音を強調することで、まるで古代の音楽であるかのような重厚さと幽玄さ、壮大さを曲に加えています。僕、基本的にバラードってあまり聴かないんですが、この曲がリリースされたときはさすがに唸ってしまいました。
内容的にはアデルの「ハロー」は傷心のラブソング。もう別れてしまい、遠い街に暮らしているだろう以前のボーイフレンドに向けて語りかけるという形式です。ありきたりと言えばありきたりですが、実はこれって歌でしかできない表現なんです。映画や小説だと主人公の無言のモノローグという形で表現することはできるのですが、ここまでエモーショナルな表現にはならない。つまり、歌でしかやれないことをやっている。とにかく優れたリリックなんです。
Text: soichiro tanaka Photo: Getty, Aflo
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田中宗一郎/音楽サイト「ザ・サイン・マガジン」のクリエイティブディレクター、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『ロッキング・オン』副編集長を務めたのち、1997年に自ら音楽雑誌『スヌーザー』を創刊。その後、2013年秋にWEBメディア「ザ・サイン・マガジン」を開設。『スヌーザー』がオーガナイズするクラブイベント、クラブ・スヌーザーは全国各地にて現在も開催中。@soichiro_tanaka