- 【第一回】どれが獲っても論争勃発!? グラミー賞2017をブッタ斬り
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時代を象徴するスターラッパーもノミネート
ただ台風の目は間違いなくチャンス・ザ・ラッパー。現在のアメリカンメインストリームポップにおける最大の風雲児は彼以外にいません。そう、彼、これまで自分の作品をCDやレコードにして売ったことがないんです。すべての作品をネットを介して、無料で配信。一応、便宜上、アルバムとは言わず、ミックステープと呼ばれていますが、これまで自身が関わってきた4枚のミックステープをすべてフリー配信してきた人なんです。ノミネートされた『カラーリング・ブック』という作品のなかでも、作家とファンの間にほかの誰かを介することなく、直接、しかも、フリーで作品を届けることこそがポップ音楽の未来を準備するんだという信念の基、10代の頃からそのスタンスを貫き続け、気がつけば2016年のスターラッパーにまで昇り詰めた人。しかも、彼の父の古い知人であるバラク・オバマ前アメリカ大統領に「君は自分の音楽をきちんと売った方がいいよ」と直々にアドバイスされても、首を縦に振らなかったという頑固者というか、信念の人でもあります。まだ彼の『カラーリング・ブック』を耳にしたことのない皆さんは、ネット検索して、データをダウンロードするか、音楽ストリーミングサービスで、せひチェックしてください。何せ無料ですから。
全米ビルボード・チャートの集計がストリーミングを換算するようになったため、彼の『カラーリング・ブック』は全米8位を記録しています。昨年、彼が主催した地元シカゴでのイベントでは3万人以上を集客。2010年代は本当にいろいろな意味で欧米の音楽業界は変わりましたが、その象徴であり、代表的な成功例でもあるのがこのチャンス・ザ・ラッパーです。つまり、グラミーがこの最優秀新人賞を彼に与えたとすれば、抜本的な大きな変化となります。僕などはそれを期待しているわけです。
でも、おそらくはそうはならない。その最大の理由はチャンス・ザ・ラッパーはベスト・ラップ・アルバム賞を筆頭に、この最優秀新人賞以外にも7部門でノミネートされてるんですね。昨年のケンドリック・ラマー同様に、サブジャンル部門で花を持たせるという形に落ち着くんじゃないか、それが僕の予想です。つまらないな、と思いつつ。
Text: soichiro tanaka Photo: Getty, Aflo