今さら聞けないアカデミー賞10の常識
2017/02/02(木)
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第85回授賞式、ホワイトハウスから中継で作品賞を発表した当時の大統領夫人ミシェル・オバマ。 
Photo: Getty Images

アカデミー賞は一番素晴らしい作品が受賞するとは限らない

9.“身内”が投票することの弊害もある
 
 アカデミー賞について説明する時、ボクは、「アカデミー賞は“必ずしもその年の一番素晴らしい作品が受賞するとは限らない”ということが大前提」と、個人的には提言している。
 
 例えば、第55回で『ガンジー』が作品賞を受賞した時、最有力候補と言われていたのはスティーヴン・スピルバーグ監督の『E.T.』だった。各々の作品に対する評価は人それぞれだと思うが、現在もより多くの映画ファンに観られ、より知名度のあるのは『E.T.』だろう。アカデミー賞はハリウッドの“身内”が選ぶ賞だと前述したが、『E.T.』に対しては「映画をヒットさせ、お金を儲けている若い監督に、名誉まであげるのか?」という嫉妬を、同業者である監督や俳優が抱いたとまで噂された。結果、スピルバーグ監督は辛酸を舐めることとなったが、これは“身内”が投票することの弊害といえよう。
 
 
10.ハリウッドと政治は密接に繋がっている
 
 またハリウッドは、政治の世界とも密接に繋がっている。近年のアカデミー賞の候補作品を眺めていると、「ハリウッドが何らかの政治的な意志表示をしている」と感じさせることがある。例えば、第85回の授賞式では、作品賞の発表をホワイトハウスから中継した。プレゼンターは当時の大統領夫人ミシェル・オバマ。この年の最有力候補と言われていたのは、リンカーン大統領が黒人奴隷解放に対して苦闘する姿を描いた『リンカーン』だった。バラク・オバマは大統領選の遊説をリンカーンと同じ経路を辿ることで、リンカーンに対する敬意を表明していた。つまり、映画芸術科学アカデミーは、「リンカーンを敬愛する大統領のいるホワイトハウスから、リンカーンの映画を製作した映画人にトロフィーを渡す」ということを画策していたのだ。しかし、この年受賞したのは、イランのアメリカ大使館人質事件を題材にした『アルゴ』!監督のベン・アフレックが監督賞に漏れたことから同情票が集まり、『リンカーン』は受賞を逃してしまったという、まさかの逆転劇だったのだ。
 
 確かにアカデミー賞には、映画会社の思惑や映画芸術科学アカデミーの意図が介在する。それゆえ「アカデミー賞なんて、どうせ“出来レース”なんでしょう?」という意見も耳にするのだが、“出来レース”とは少し異なる。前述した例のように、その作品が優れているかという基準だけでなく、確実に映画人同士の羨望や嫉妬、時代の潮流などが賞の行方に影響を与えている。だからこそ「アカデミー賞は“必ずしもその年の一番素晴らしい作品が受賞するとは限らない”」のだ。

『E.T.』、『ガンジー』/Photo: AFLO

Text: Takeo Matsuzaki

  • 松崎健夫(まつざき・たけお)
    映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。

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