スイートでちょっとダークな、めくるめくウェス・アンダーソンの世界
架空のホテルを舞台に、伝説のコンシェルジュがたどった半生をコミカルに描き、日本でも大ヒット公開中の『グランド・ブダペスト・ホテル』。その独特の世界観で映画ファンやファッション界も魅了してきたウェス・アンダーソン監督のインタビューを交えて、アンダーソン作品の魅力に迫る!
ファッション界やクリエーターも魅了
「いま僕はパリにも部屋をもっているけれど、この10年間の多くをヨーロッパで過ごしてきた。長くヨーロッパにいることで物の見方が変わってきたのも事実だね。ヨーロッパにいると、自分は米国人なのだと意識させられるけれど、米国に戻ると、なんだか外国人になったような気がする。この作品は、そんな雰囲気に影響されて作られたものなんだ」(アンダーソン監督)
ちなみに、『グランド・ブダペスト・ホテル』の製作過程では、小さな試写室が準備され、往年の名画がスタッフなどにも観られるようになっていたというが、ウェスが参考にしたという作品リストは以下の通り。『グランド・ホテル』(32年)、『ゲームの規則』(39年)、『たそがれの女心』(53年)、『輪舞』(50年)、『沈黙』(62年)。ウェス・アンダーソンの世界に魅了されたのなら、こんな古い名画を観返してみるのもいいかもしれない。
『ライフ・アクアティック』(05年)はローマの伝説的なスタジオ「チネチッタ」で撮影するなど、シネフィルの琴線をくすぐり続けるウェスだが、一方で、その独特の世界はファッション界やクリエーターたちからも絶大な支持を得ている。ともすればあざとくなりがちな有名ブランドとのコラボレーションも、嫌味なくサラリとやってのけてしまうのもこの監督の特技といっていい。
たとえば、出世作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01年)では、グウィネス・パルトロウの「ラコステ」のポロワンピースの上に「フェンディ」のファーを羽織ったスタイルを筆頭に、そのファッションは多くのモード誌が熱狂し、インドでロケを敢行した『ダージリン急行』(07年)では、「ルイ・ヴィトン」の特注ラゲージが話題となった。
『グランド・ブダペスト・ホテル』では、80代の老女マダムDを演じるティルダ・スウィントンが纏うファーや、グスタヴを追う大尉を演じたエドワード・ノートンが着ているアストラカンのコートなどを「フェンディ」が、マダムDの息子の共謀者であるジョプリングを演じるウィレム・デフォーのコートを「プラダ」が手掛けるなど、ヨーロッパのトップメゾンとのコラボレーションも健在だ。
さらに、映画中、印象的に登場する「メンドルズ」のお菓子……。ディティールを探っていけば、何回観ても楽しめる。これぞウェス・アンダーソンの真骨頂である。
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『グランド・ブダペスト・ホテル』
監督・脚本/ウェス・アンダーソン
出演/レイフ・ファインズ、トニー・レヴォロリ、ジュード・ロウ
配給/20世紀フォックス映画
公式サイト/GBH.JP
TOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテほか全国公開中
text : Atsuko Tatsuta