スイートでちょっとダークな、めくるめくウェス・アンダーソンの世界
架空のホテルを舞台に、伝説のコンシェルジュがたどった半生をコミカルに描き、日本でも大ヒット公開中の『グランド・ブダペスト・ホテル』。その独特の世界観で映画ファンやファッション界も魅了してきたウェス・アンダーソン監督のインタビューを交えて、アンダーソン作品の魅力に迫る!
“最もヨーロッパ的”なアメリカ人監督
米国映画におけるマーティン・スコセッシの後継者といわれている、気鋭監督ウェス・アンダーソン。今年の2月に開催されたベルリン国際映画祭のオープニングを飾り、銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した新作『グランド・ブダペスト・ホテル』は現在、米国のみならずヨーロッパでもヒットしていて、早くもアカデミー賞など賞レースにも絡んでくることが予想される注目作である。
「ウィーンの作家、シュテファン・ツヴァイクの小説にイスパイアされた」(アンダーソン監督)という物語の舞台は、ヨーロッパの架空の国、アルプス山脈のふもとにある老舗ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」だ。そこで働く“伝説の”コンシェルジュ、グスタヴ・Hが主人公である。ある日、顧客で懇意にしていた富豪の老女マダムDが殺され、グスタヴに殺人容疑がかけられ、逮捕される。希少な絵画「少年と林檎」を老女が遺言でグスタヴに残したことで、遺族の逆鱗に触れたグスタヴは、脱獄。息子のように可愛がっているベルボーイ、ゼロ・ムスタファとともに、真実の究明のためヨーロッパ中を駆け回る……。1930年代から1960年代という時代を経て、老作家によって語られるミステリーである。
ユーモア溢れる語り口、ミステリータッチのストーリー展開、完璧に構築されたヴィジュアルと音楽。これまでのウェス・アンダーソンの世界の集大成ともいえる。“米国を代表する監督”でいながら、“最も偉大なヨーロッパ的な米国監督”ともいわれるウェスだが、この『グランド・ブダペスト・ホテル』は、そんなウェスの代表作となるだろう。
「僕がもっとも影響を受けてきたのは、一方はジョン・ヒューズやマーティン・スコセッシといったアメリカ系映画で、もう一方はヨーロッパ系の映画。10代のころは、基本的にアメリカの映画しか知らなかった。けれど、大学時代に60年代の海外の映画、トリュフォーやゴダール、ベルイマン、フェリーニ、黒澤などを知った。そこから、ニュージャーマンシネマなどを観るようになったんだ。加えて、マーティン・スコセッシ、ピーター・ボグダノヴィッチ、マイク・ニコルズなど……。彼らがディズニー映画と『スター・ウォーズ』で育った僕に、映画監督になりたいと思わせてくれた」(アンダーソン監督)
-
『グランド・ブダペスト・ホテル』
監督・脚本/ウェス・アンダーソン
出演/レイフ・ファインズ、トニー・レヴォロリ、ジュード・ロウ
配給/20世紀フォックス映画
公式サイト/GBH.JP
TOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテほか全国公開中
text : Atsuko Tatsuta