マリー・アントワネットが現代に伝える香りのエレガンス
多くのエピソードを残すフランス王妃マリー・アントワネットは、抜きんでた美意識と繊細なセンスで香水史に名を刻むフレンチビューティでもあった。こよなく緑と植物を愛し、自然に由来する香りをひとつのカルチャーに昇華させた、BOBOシックなスタイルアイコン。アール・ド・ヴィーブルを体現するマリー・アントワネットのフレンチエレガンスをSTUDY!
18世紀フランス宮廷の香り事情
パルファン=香りは宮廷生活に欠かせないものだけれど、イコール現代の香水ではないことを知っておきたい。「水」を病気の元と考えていた当時のフランスにはバスタブに湯を張る入浴の習慣がなく、高貴な女性たちはみな、酢を含ませた布で体を拭いていたそう。平安時代の貴族が衣服に「香」を焚きしめたように、体臭や嫌な匂いを「隠す」ための必需品が、実は香りだったという。
「隣国の衛生習慣が徐々に伝わってきたとはいえ、当時入浴はデュ・バリー夫人やポンパドール夫人など王の愛人たちの習慣、つまりちょっとはしたない行為と見なされていました。ところが、衛生先進国のオーストリアからやって来たマリー・アントワネットはバスタイムが大好き! 花びらやハーブのポプリ入りの湯に浸かって読書をしたり、入浴後に軽い食事をとって休息したり。窮屈な宮廷生活の希少なプライベートタイムとしてこよなく愛したのです。入浴後には清潔な体にたっぷりパルファンをしみ込ませたドレスや手袋、メイク、ボリューミーなウイッグなど身支度を整え、貴族たちに謁見したのです」(エリザベットさん)
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エリザベット・ドゥ・フェドー/Elisabeth de Feydeau
フランス・パリ生まれ。ソルボンヌ大学で歴史学を専攻し、香りにまつわる歴史の独自の論文が注目を浴びる。18世紀の調香師ジャン=ルイ・ファルジョンの物語『マリー・アントワネットの調香師』や、マリー・アントワネットが育てた花や植物を描いた『マリー・アントワネットの植物誌』(いずれも原書房刊)他、著作多数。ヴェルサイユ香水学校で教鞭をとりながら「ゲラン」「ディオール」「シャネル」他、フランス香水ブランドのコンサルタント、香水開発に関わる。2011年、18世紀のヴェルサイユをテーマに現代的なアレンジを施す自身の香りのブランド「Arty Fragrance(アーティ フレグランス)」をスタート。幼少時からピアニストを目指し音楽に没頭した経験が、音楽と香りに共通する"目に見えぬものがもたらすエモーションやハーモニー”に魅了されたきっかけだそう。
Arty Fragrance http://www.arty-fragrance.com/
photo : Ayumi Shino text : Chiyo Sagae